最近、体調がすぐれず、肩に痛みを感じるようになった中年のDさんは、同じ職場のパート従業員のEさんに、肩の痛みのことを愚痴りました。するとEさんは、自分の痛みの改善体験を話したうえで、ある宗教団体の集まりに一緒に行こうとDさんを誘いました。Dさんは、「Eさんの痛みが実際に改善したのなら、自分も試してみたい」と思い、その宗教団体の集まりに出かけました。
その集まりでは、その宗教組織の〝上位〟に就いているFさんが、肩の痛みについてのDさんの話を親身に聞いてくれました。そのうえでDさんは、その宗教組織特有の儀式をFさんから受けました。その儀式は、その宗教組織が作っている紫色の絹のハンカチのような布を、Fさんが独特な手の動きをさせながら、Dさんの肩の上に、そうっと置いて、Fさんが、その紫色の布に向かって、目を閉じて口の中で何かを唱える、というものでした。
Dさんは、自分の肩が暖かくなった気がしました。それでその後も、その集まりに4回ほど出かけて1カ月が過ぎたときには、Dさんは、自分の肩に痛みを感じなくなっていました。
宗教儀式が私たちの体の痛みや症状を緩和してくれる効果を持つのは、偽薬効果です。宗教儀式の偽薬効果が生じるか否かは、当人がどの程度、その宗教を信じるかどうかにかかっています。信じれば信じるほど、偽薬効果は生じやすいのです。まさに「信じる者は、救われる」のです。
宗教儀式の偽薬効果、と言うと、宗教儀式や宗教を否定しているように聞こえるかもしれませんが、私が言いたいのは、宗教の否定ではありません。
薬も、宗教も、そして、それ以外のこと、たとえば、日々の身体のトレーニングも、日々の仕事でも、あるいは、将来の夢や大きな人生の目標でも、「効果がある」、「自分は達成できる」と、信じれば信じるほど、実際に効果が現れたり、実現できたりする可能性が高まる、ということが言いたのです。何かに取り組むときには、自分を信じ、成功を信じて取り組みましょう。
相川充(あいかわ・あつし)◎東京学芸大学名誉教授。広島大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。宮崎大学助教授、東京学芸大学教授、筑波大学教授を経て現職。博士(心理学)。著書に『人づきあい、なぜ7つの秘訣?―ポジティブ心理学からのヒント―』(新世社)、『すみっコぐらしのお友だちとなかよくする方法』(主婦と生活社)など。