「現代のテクノロジーを使えば、ボタンを押すだけで、バックトラックを作成して、異なるアイデアを試すことができる。これが新たなテクノロジーの利点だ」と彼は話す。
パーム油の大富豪であるクオック・クーンホンの息子である34歳のメンルーは、2021年にコールデコット社を設立した。同社は、音楽制作プラットフォームの「BandLab(バンドラボ)」に加え、メディア企業のNMEや楽器店グループのVista Musical Instrumentsを保有している。
バンドラボは2022年のシリーズBラウンドで6500万ドル(約87億円)を、Microsoft(マイクロソフト)の共同創業者の故ポール・アレンが設立したCercano Management(旧バルカンキャピタル)の主導で調達した。中国のテンセントやインドのEラーニング大手Byjusの出資元として知られるプロサスらも参加したこのラウンドで、同社の評価額は3億1500万ドル(約416億円)とされた。
楽曲の元ネタをAIで作成
「バンドラボを、他のプラットフォームに例えると、マイクロソフトのWordに対するGoogleドキュメント、あるいはExcelに対するGoogleスプレッドシートになる」と、2015年にプラットフォームを立ち上げたメンルーはいう。リアルタイムの「ライブセッション」に他のユーザーを招待して楽曲を制作することが可能なバンドラボの1月時点の登録ユーザー数は6000万人に達し、前年から2000万人増加した。ここ最近、注目を集めるChatGPTなどのジェネレーティブAIモデルは、あらゆる分野を変革する可能性を秘めている。マイクロソフトが100億ドル規模の投資を発表したOpenAIが昨年11月に発表したChatGPTは文章だけでなく、歌詞やメロディ、楽曲のコード進行の生成も可能だ。また、同社のMuseNetと呼ばれるツールは、ジャンルや楽器のプロンプトを与えると、4分間の楽曲を生成できる。
「私たちのAIへのアプローチは、少し型破りなものだ」とメンルーは、フォーブスの取材に述べた。バンドラボのAIツール「SongStarter」は、ユーザーが自分の曲の元ネタとして使用できるロイヤリティフリーの楽曲のアイデアを生成する。さらに、歌詞や絵文字をこのツールに入力すると、グーグルのTensorFlowの機械学習システムを使って、3つの「バイブス」を生成し、曲のアイデアをカスタマイズできる。
バンドラボのユーザー層の60%以上は24歳以下で「新しいやり方を受け入れている」とメンルーは付け加えた。「音楽の創造から消費に至るまで、より多くの人が制作に関わることは、全体として良いことだと考えている。現代は誰もが携帯電話という楽器を手にし、歴史上かつてないほど多くの人が音楽を作っている」と彼は話す。