ビルボードで注目の17歳も活用
メンルーは、バンドラボのAIを利用した音楽制作ツールの試みが「まだ始まりに過ぎない」と述べ、特定の新機能を挙げることを避けた。他社のAIツールは演奏を再現したり、バックトラックの構成要素を分離することが可能だ。オープンソースのボイス生成ツールの「Uberduck」は、ケンドリック・ラマーやドレイクといった人気ラッパーのサウンドを模倣できるし、Spotify(スポティファイ)のツールの「Basic Pitch」は、オーディオデータを編集可能なMIDIファイルに変換することが可能だ。メンルーのデジタル音楽への情熱の根底には、伝統的なリアル店舗の楽器店がある。ケンブリッジ大学を卒業した彼はまず、シンガポールのギターショップの「Swee Lee」を買収した。エリック・クラプトンやB.B.キングなどの、クラシックロックの愛好家である彼は、77年の歴史を持つこの楽器店が、その後の事業のベースになったと説明する。
「既存の店舗を活用してエクスペリエンスを構築し、サプライチェーンを統合する機会を見出したことが、出発点だった」と彼は話した。
バンドラボが生んだスターの1人に「d4vd」という名前で活動する17歳のシンガー、デビッド・バークが挙げられる。プロ用の機材を買う余裕がなかった彼は、姉の家のクローゼットの中でアプリを使ってボーカルトラックを制作してTikTokで人気を獲得した。d4vdが2022年夏にリリースしたシングル『Romantic Homicide』は、ビルボードのHot 100で33位を記録した。
メンルーは、今後もd4vdのような新たなスターを送り出したいと考えている。バンドラボは昨年、年間6万ドル(約800万円)相当の「クリエイター助成金」を与える制度を開始した。メンルー自身も、自身の個人ファンドであるCaldecott Venturesを通じ、エンジェル投資家としてこの分野のスタートアップを支援していく予定だ。
「自宅でシャワーを浴びながら歌う人や、クローゼットの中で曲を作る人にこそ、新たなチャンスが広がっている。ソーシャルメディアの時代が実現する新たな音楽シーンを支援していきたい」とメンルーは語った。
(forbes.com 原文)