一方、アフターデジタルの世界は体験価値、つまりUXを重要視する(図2)。属性データから行動データで理解するという話です。これまでは一人の人間を属性で理解して、市場規模の把握や商品設計をしていましたが、人間は数多な状況の集合体です。働く、家族と過ごす、スポーツをする、音楽を聴く、すべて違う状況です。個々が快適でいるための一連の行動フローを支える支援がIDベースによって行われ、個々の点在する趣向や状況に寄り添って理想実現を手助けできる。そのための『アクションの補助』とも言えます」
また、所属を選べるという観点でも、デジタル領域は大きな可能性を持っている。先行事例としてあげられるのが、エストニアの「e-Residency」や新潟の山古志村の「NIshikigoi NFT(非代替性トークン)」だ。
「e-Residencyは海外の人でも電子住民票を獲得でき、エストニア国民と変わらず税制が融通されて起業なども行えます。山古志村は人口800人強の小さな村ですが、NFTによるデジタル村民制度を作りました。『リアルの村民+デジタル村民』で村を創生する仕組みです」
「理想の共鳴」と「支援するシステム」
デジタル領域での実生活の拡張は日々進んでいる。では、本来私たちが身を置くリアルの場所はどのように変わっていくのだろうか。また、そこではどのような支援が行われるのだろうか。「ひとつの街でペイメントアプリが10個あるよりも1つのアプリにまとまっていた方が便利ですよね。例えば、MaaS(次世代移動)サービスが4つあるが、あるアプリでは『乗り入れしていません』と言われるような状態はよくありません。
一方、サービスが一強になってしまうと、多様性が生まれにくい状態になります。そこで好事例となるのが、インドネシアのQRIS(キューリス)というQRコードです。何十種類も決済アプリが存在していても、共通に使えるコードを発行することで、どの決済アプリでも支払いができます。また、中国では、デリバリーの配達プラットフォームのドライバーを融通し合うという『リソースの共助』がすでに行われています。これらは独善的な利益を求めるのではなく、社会アセットとして、業界全体が機能するようになっています」
こうした機能拡張を前提としながら、各地域が地域外の関係する人々と協力し合いながら、独自性を高め魅力を増していくことが望ましいだろう。