経済

2023.02.17

キーワード「SBNR」から考える。消費、つながり、社会、どう変わる?

Forbes Japan

『カルチュラル・コンピテンシー』共著者、季刊誌『tattva』編集長の花井優太が分散化時代にどう社会との関係を築くのか、を考えるうえで注目する現象とは。


モノ消費からコト消費、そしてイミ消費へといわれる昨今、サービスや商品を一方的に提供されるのではなく、ユーザーが対象への愛着や深い理解によってファンと結ばれ、共創が生まれる経済圏「ファンダム・エコノミー」や、経済成長でも科学でも解決できないことが山積みの現代において、個人が信じられる心の豊かさを消費をはじめとする体験に求める「Spiritual But Not Rel igious(SBNR、宗教的ではないが神秘的ないし精神的)」などのキーワードが注目されるようになってきている。

筆者が、土地の文化背景や営みに焦点を当てながら経済サイクルを生む方法知を探った共著書『カルチュラル・コンピテンシー』も、拠り所と拠り所をよくしていこうとする行動をテーマにした本だ。同書の執筆によって、より関心を強めることになったのは、「では、なぜ、人はその土地や文化を愛し、持続的に生産活動あるいは消費活動をするか」であった。「ファンダム・エコノミー」や「SBNR」といった概念には、どちらも心の拠り所を求める側面が垣間見え、これらにヒントがあるように思える。

特に「SBNR」は、共通の信じる対象や思い描く未来がない現代において、ウェルビーイング(心身の健康や幸福)やマインドフルネスが台頭していることとも関連性を感じるワードであり、人が何に惹きつけられ、何を選び、何を信用し拠り所とするかを観察するうえでも無視できない。

コロナ禍では経済機能、消費、情報が地方にバランスよく行き渡る地域分散型社会というあり方が耳目を集めた。加えて近年、デジタル領域においては、組織やエリア関係なくつながりながら、それぞれの趣向や課題を共有する分散型自律組織(DAO)という文字を頻繁に目にするようになっている。リアル、デジタルともに、今後の社会構想において分散は重要なテーマであり、また人々は何を媒介にどのようにつながり、どう営んでいくのか。そこに、企業活動はコミットしていけるのか。「拠り所」を巡るキーワードを押さえながら、分散型時代の趣向と消費について考え、その答えを探していく。

「3分類の所属意識」とファンベース

では、まず、どのようなサービスや提供体験が「拠り所」になりうるのか。社会の複雑性を構造的に読み解く社会学が専門の関西学院大学准教授・社会学者の鈴木謙介は「サービス体験や商品が、効率性やコストパフォーマンスとは違う軸で、購入者の『生活の潤い』になること。また、ブランド自体が、商品価値を拡張して、ユーザーの生活を支えるようなプラットフォームになることが必要」だと言う。

鈴木は、まず所属意識や拠り所に対して人々が持つ認識を、日本の歴史変遷をたどりながら理解する必要があるという。

「戦前の日本には、職と住が同じところにある農村コミュニティがありました。戦後は、大衆社会と核家族のモデルになります。みんなが同じ大衆の夢を見て、帰属単位は家族だという考え方ですね。田舎の村を出て、都会で大企業に勤めて家族を作る。望む理想の生活も人々に共通性が見られるので、マーケティング的にも『効くツボ』を見つけやすかった時代といえるでしょう。

その後、バブルを境に経済成長が足踏みし、失われた30年になり、お金が十分になければ家族を作ることも難しくなりました。そして、雇用の流動化も起きています。いってみれば、地縁も血縁も社縁も薄くなってしまっている状態です」

旧来的な人々をつなぐ「縁」が失われ、またいまやライフスタイルも多様的で、「大衆の理想の暮らし」に結びつくような価値の提示、および、消費行動もなくなった。個人のLTV(顧客生涯価値)に寄り添ったり、ブランド自体への愛着を高め高関与層を獲得したりするファンベースが叫ばれるようになったのも、こうした背景と無関係ではないだろう。
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文=花井優太 イラストレーション=ジャコモ・バグナラ

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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