経済

2023.02.17 09:00

キーワード「SBNR」から考える。消費、つながり、社会、どう変わる?

そして、「拠り所」を起点としてサービスや体験提供を考えるに当たっては、人々の所属にまつわる意識構造を知る必要があるという。

「所属欲求は、例えば、スクールカーストの上にいたい、偏差値の高い大学に入りたい、有名な企業に入りたいみたいな、特定のカテゴリーに入りたいという欲求です。

それに対して、所属意識は、所属対象に敬意や愛着を持てるか、自己のアイデンティティの一部となっているかが問われるものです。もちろん単純に所属しているだけでも、組織や場に所属意識を持つ人もいますが、所属意識を醸成することが重要です。

ふたつめが、昨今ファンダムとも呼ばれるようなもの。地縁や社縁と並び、社会学では『趣味縁』といいます。好きなものでつながり、ファン同士で協力しあって対象を支援する消費行動もここから生まれます。組織に所属するのではなく、好きなものを集いの媒介にして所属意識を高めるわけです。また、その活動を通して、『推し』と呼ばれる対象への愛着を高めていきます。」

記憶に新しいのは、ボーイズグループ公開オーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」に参加しているメンバーへの応援広告や、SMAP解散時のファンによる感謝メッセージの広告などもそうだろう。単にCDやグッズを買うだけでなく、支援行動そのものが消費活動となっている。

「最後が、貢献を通じた所属意識です。いわゆる『ガチハマり』、つまり過剰な課金や貢ぐといった一対一の関係性を求めるもの。同じ界隈に出入りはしていますが、同じアイドルを好きな人とは交わらない『同担拒否』的なものも、この所属意識のなかの行動にくくられます」

さらに加えて、「SBNR」についても言及する。

「一般的に宗教のような教えと歴史の体系を持つものは、教義を信じて戒律を守るという行為がそのまま所属、アイデンティティに結びつきます。それは他の信徒と自分のものの見方や価値観が一致している状態であるとも言えます。しかし現代では、人々がそれぞれ精神的に肌に合うものを選びとって心の豊かさを求める傾向が見られます」

1. 組織への所属意識、2. 趣味嗜好の媒介所属意識、3. 貢献的所属意識の3つの分類という、現代人の趣向を知ることができた。では、企業およびサービス提供者は、ユーザーと関係を結んでいけばいいだろうか。

「ファンベース関連の書籍には、『2割の消費者が8割の売り上げをあげる』と記載してあります。ですが、そこまで売り上げに貢献するほどのアイデンティティの一部になるような商品やサービスを企業側が計算して作ることはそもそも難しい。だとすると、パーパスのように企業理念を魅力的に見せるという考えが浮かびますが、実を伴わない、もっといえば大衆の、個人の世界がリアルに変わる感触を与えられなければ魅力にならないので、こちらも難しい。

だとすると、多くの企業を支えるのは、2割のファン層よりも、8割の『普通の顧客』です。そこで目先の利益にとらわれて2割のファンだけが貢献消費を行うような施策をすると、他の顧客との関係の土台が破綻してしまいます。そのため、ファンコミュニティと地道に関係性を築きながら、8割層にもアプローチし続ける、両面戦略が大切でしょう。

さらに、趣味縁で考えると、ファンコミュニティのなかで他のファンとの媒介を応援する動きが起こることが重要です。例えばイベントなどを行った時に、個々のサポーターがそれぞれに楽しみに来ているのではなく、その場で他のファンと関わることがファンの楽しみになれる環境を作れるかが、企業の課題だと考えます」

人々がブランドの姿を信じられることが前提であり、目先の利益にとらわれない中長期的な関係構築が必要ではあるものの、その体験自体をどのように作り込みユーザー同士をつないでいける「拠り所」になれるか。それが企業やサービス提供者が今後も挑戦しなければならない領域であるということだ。
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文=花井優太 イラストレーション=ジャコモ・バグナラ

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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