アート

2023.02.05

2023年は「工芸とビジネス」が繋がる年に KOGEIの未来

2021年京都市文化財「佳水園」を舞台に、奈良祐希が個展で​​​​​​華道家・小原宏貴とのコラボレーションした作品

──日本の伝統を取り入れ、新しい美の表現を世界にどう広げていきたいと考えますか。

工芸と建築は本来、非常に密接な関係がありました。僕自身、「空間化する工芸」を掲げているので、新たな展示環境を創出することは作品づくり同様に大事なことです。

例えば、時代の変遷とともに忘れ去られた地方の建築的財産や新しいフィロソフィーを感じる現代建築、異なる世界観を持つ企業とのタイアップなどです。これまで、京都市文化財の「佳水園」や、ドイツ高級家具ブランド「ロルフベンツ」とのタイアップ、昨年6月にはパリのブティックで個展を開きました。今年は京都や淡路島、サウジアラビアといった大自然と共存した展示のほか、秋元雄史先生監修のサントリーホールでの演奏会の会場構成などがあります。

毎回、それぞれの場所から生まれるインスピレーションで新作も作っていて、展示のスタイルとしても日本らしさを表現したいと考えています。

社会とつながる「工芸マインド」とは

──2023年は、KOGEIにとってどんな年になるでしょう。今後、どのように進化していくと考えますか。

社会のAI化は急速に進みますが、これからも「人間らしさ」は失われていかないでしょう。人間らしさやクリエイティビティは、工芸とも言い換えられると思います。

これまでビジネス的な観点からアート思考が注目されてきました。これはアートを通じて感性を磨き、直感的なインスピレーションを活かす方法論などだったように感じます。この論理に工芸も接続すると、より本質的なものが見えてくるのではないでしょうか。

経済が人の暮らしを豊かにする手段だとすれば、加速度的にテクノロジー化が進むビジネスを「人の手」に再び取り戻し、社会と再び繋がっていく姿勢そのものが「工芸的」であり、今後より求められていく概念になるのではないかと思います。

奈良祐希

奈良祐希


奈良祐希◎1989年石川県金沢市生まれ。2013年東京藝術大学美術学部建築科卒業、2016年多治見市陶磁器意匠研究所修了。2017年東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻首席卒業、2021年より建築デザイン事務所 EARTHEN主宰。陶芸分野では、Art Basel / Design Miami(スイス)、TEFAF(オランダ)、SOFA(アメリカ)などに招待出品。建築分野では、主な作品に「五行茶室」(2018/金沢21世紀美術館、台南市美術館)、「Node」(2023/企業新社屋、金沢市)。


▼「KOGEI」シリーズ
1. なぜいま「KOGEI」なのか 世界で新しい工芸の価値が高まる理由
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2.世界が驚く「KOGEI」最先端 いま知っておくべき、日本人作家5人は誰だ?

3. 金沢から世界へ 新しい工芸・ラグジュアリー戦略の突破口とは


取材後記

工芸とアートが融合する「KOGEI」が芽吹く金沢で数年過ごしたことがある。それから5年ほどたち、環境がどのように変化しているか関心があった。取材を通じて見えてきたのは、より社会に受け入れられ、機が熟していまこそ求められる価値観となっていること。ビジネスにも工芸マインドが取り入れられることで、伝承される技や地域資源、自然を生かし、手触り感のある事業やサービスに愛着をもつことができる、そんな可能性を感じた。工芸の未来は、意外にも柔軟な発想で足元を見つめ直す原点回帰にあるのかもしれない。(督あかり)

文=督あかり

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