世界一のシェフの社会貢献 カサ・マリア・ルイージアにみる「共有」の形

マッシモ・ボットゥーラ氏(筆者撮影)

今年のイタリアの夏は、暑かった。筆者がモデナを訪れたのは、6月初旬。だというのに、気温は連日30度を超えていて、ホテル&レストラン「カサ・マリア・ルイージア」では、真夏さながらに宿泊客が日光浴をし、広々としたプールに飛び込んでいた。

ここは、コロナ禍前の2019年5月に、世界No.1シェフ、マッシモ・ボットゥーラ氏が歴史的な建造物をリノベーションして生み出したホテル。この場所に宿泊するのが、この旅の一番の目的だった。

カサ・マリア・ルイージア
カサ・マリア・ルイージア(c)Stefano Scatà/Casa Maria Luigia

所々にアートピースが飾られ、整備された優美な庭園は、ちょうど薔薇の花盛り。「ようこそ」と出迎えてくれたボットゥーラ氏と、しばし歓談する。

食を通した社会問題へのアプローチで知られ、国連のアンバサダーも務める彼に、いま注力している社会問題を尋ねると、「地球温暖化」という答えが返ってきた。

「地球の人口は70億人だというのに、私たちは120億人分の食料を作っていて、その3割は捨てられている。電気と水と人の労力を使って食を生み出して、最終的にそれを焼いて空気を汚染するなんて、こんなひどいことがあっていいわけがない。地球温暖化の対策には様々なアプローチがあるけれども、シェフである自分は、もちろん料理を通して解決したい」

ボットゥーラ氏はフードロスに対しての取り組みを行なっており、その一つが、賞味期限切れ間近の食品を、プロのシェフの手で美味しい料理に仕上げ、路上生活者に提供するというプロジェクト「レフェットリオ」だ。

筆者も実際に、ボランティアとしてこのレストランのサービスを1日だけ担当させてもらったが、レストランという場所が「ただ空腹を満たすための場所」ではなく、そこで過ごす時間を通して、心も体も癒され元気になる、人間性を取り戻すための場所だということが実感できた。そこには、路上生活者であるかどうかではなく「同じ人間である」ことを大切にした、人と人との本質的な触れ合いがあった。

彼への取材を重ねるうちに、その考え方の根底には常に「境界を取り払う」という哲学があるように思えてきた。

「路上生活者」という言葉で、まるで私たちから切り離された存在のように境界線を作るのではなく、人と人として関わる「レフェットリオ」もその一つだが、カサ・マリア・ルイージアにステイしてみると、それがより一層はっきりと実感できた。


(c)Casa Maria Luigia

敷地内を案内してもらうと、そこには、「わたし」と「あなた」の境界線がないことに気づく。例えば、オーディオルーム。ボットゥーラ氏自身の貴重なコレクションであるレコードが、部屋の壁を埋め尽くす。ゲストはそれを、ここにいる間は自由にかけて楽しむことができる。
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文・写真=仲山今日子

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