さて、コースの最後は、甘味でしめくくるのが世のレストランの常。しかしここでは、かの有名な、レモンタルトの再構築デザート「おっと!レモンタルトを落としちゃった」の後に、モデナを代表するモルタデッラハムなどを詰めたパスタ「トルテッリーニ」が供される。
ボットゥーラ氏が子どもの頃から大好きな心の味。「コースの最後は甘いものなんて、誰が決めたんだい?」と、氏は茶目っけたっぷりに笑う。
レモンタルトの再構築デザート。最後のトルテッリーニは氏の祖母の味だとか。出す順番を変えることで「新しく」なる
コンテンポラリーアートのように物事を逆さに見るのが好きだという彼のスタイルは、「デザートの構成要素を料理に、料理の構成要素をデザートに」という一種「あべこべ」な料理も多く見られる。
このカサ・マリア・ルイージアやオステリア・フランチェスカーナのみならず、世界のベストレストラン50の際にロンドンで行われたコラボレーションイベントでも、イチゴを使った塩味のパスタがデザートとして提供された。
また7月には、監修するグッチ・オステリアのフローレンス店で「エル セラール デ カンロカ」のペストリーシェフ、ジョアン・ロカ氏を招いて、料理とデザートの構成を逆さまにするコースが提供されたという。
ボットゥーラ氏の活動はほかにも、知的障害があるものの、単純作業が得意な子どもたちと、核家族化で話し相手が減ってしまったお年寄りが一緒にトルテッリーニを作って提供するレストラン「トルテランテ」を展開したり、カサ・マリア・ルイージアのシェフ、ジェシカ・ロズヴァル氏とともに、難民の女性たちに職業訓練をして、故郷の料理を提供してもらうレストラン「ルーツ」をオープンするなど、広がりを見せている。
「つい最近、『ルーツ』にいたアフリカ難民の女性をオステリア・フランチェスカーナに、採用したんだ」
誰もが憧れる三つ星の厨房が、ジェンダーや国籍という「境界」に関係なく、全ての人に平等に道が開かれている。氏はそれを言葉だけでなく行動で証明し、未来への希望につなげてゆく。
ボットゥーラ氏とカサ・マリア・ルイージアのシェフ、ジェシカ・ロズヴァル氏(c)Marco Poderi
さて、私たちが今、地球環境問題に対してできる行動はなんだろうか。
「牛乳、バナナ、サラダ、パン。これらが、一番無駄にされている食材。冷蔵庫を見て、季節のものを適量買い、冷蔵庫に詰め込んでは捨てるということをやめるようにしよう。焼かれたものが世界を汚染する、ということをちゃんと考えて欲しい」
そうだ、私たちはこの地球を、世界の人々と共有している。目には見えづらいけれども、今目の前のことをきちんと行うことは、境界線を超えて、世界とつながる行動そのものなのだ。