「KOGEI」の発信源は、1995年に世界工芸都市宣言を打ち出した金沢だ。金沢では工芸にまつわる芸術祭や作品展が大小問わず年中開かれているなか、国内唯一の工芸に特化した大規模なアートフェア「KOGEI Art Fair Kanazawa」が注目されている。昨年から関連イベントとして北陸3県を巡る芸術祭「GO FOR KOGEI」も始まり、工芸を起点とした地域内の循環も始まった。
日本発「KOGEI」はいかに誕生し、世界でどのように評価されているのか。10年以上前から「工芸未来派」を打ち出し、アートと工芸の融合に取り組んできた東京芸術大学名誉教授(金沢21世紀美術館特任館長)秋元雄史さんに聞いた。
現代アート界で「KOGEI」の価値向上
──世界に発信する「KOGEI」が誕生した背景について教えてください。
1995年の金沢市の「世界工芸都市宣言」以降、工芸のあり方について議論がされ、世界に発信していく動きがあるなかで、10年ほど前からだと思いますが、金沢から英語表記のまま「KOGEI」と言っていこうということになったと記憶しています。
工芸を英訳すると「craft」となりますが、日本の工芸は英語のそれとはだいぶニュアンスが異なる。海外では、絵画や彫刻などファインアート(純粋美術)と工芸やデザイン、あるいは建築をアプライドアート(応用美術)と言って分けて考えます。それは単純に分けるというだけなく、芸術的な価値の上下関係(ヒエラルキー)が含まれるのです。
工芸を絵画や彫刻よりも低い美術として見るという歴史は日本、あるいはアジアにはないので、どうしても西洋流の考え方がしっくりこない。日本では、両方にまたがる形で美的なものを考える。それでは、こちらの考えがそのまま出ているKOGEIを使いましょう、ということにした。SUSHIやJUDOをそのまま英語にしているのと同じです。
──秋元さんご自身は金沢・世界工芸トリエンナーレを2010年から始め、12年から「工芸未来派」と名付けてアートと工芸を結びつける取り組みをされてきました。
私が2007年に金沢21世紀美術館館長(17年まで)になってから、現代アートのなかで工芸を位置付けようとしてきました。当初はそれらは全く別物だという意見も美術館でもありました。実際に完全に被るわけではないのですが、いま工芸と呼ばれているものの中には現代アートと言ってもいいものもあります。そこで、そういう傾向の工芸作品をまとめて、現代アートの先端を紹介してきた金沢21世紀美術館で展覧会をしてもいいのではないかと思うようになりました。
「現代アート化する工芸」、それが生まれる過程には2つの流れがありそうだと考えました。
ひとつは工芸側から、現代アート化してきたという見方です。伝統工芸もそうですが、工芸は、素材と技術を問題にするジャンルです。時にそれは、非常に高い技術をまるでアートのように紹介したり、素材の新しい表現方法として見せていくということにこだわります。その「素材と技法へのこだわり」が工芸の本質とでも言えるのですが、一方で工芸はその伝えるべき中身や内容については案外無頓着というか、自由です。皿を作ろうが、作品を作ろうが、自由なのです。工芸的な技術を使用して自由な表現をつくる作家の中には、現代アートと言ってもいい表現をする人たちが出てきます。サブカルや現代アート、デザインなど同時代のアートと関係するような工芸です。これが「現代アート化する工芸」の一つです。