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2022.12.31 12:00

なぜいま「KOGEI」なのか 世界で新しい工芸の価値が高まる理由


日本で知られざる、アートフェアの魅力


──昨年から関連企画として工芸の祭典「GO FOR KOGEI」も始まりました。アートフェアの今後の展開を教えてください。

「GO FOR KOGEI」は北陸3県を巡り、旅するなかで工芸と出会う企画です。北陸には豊かな工芸産地としての土壌が残っており、専門の美術館や大学、研究所、ギャラリー、そして作家が制作する工房が多数あります。それらを旅の滞在の中で楽しんでもらうためのきっかけを作るため「GO FOR KOGEI」を企画しました。産地で開催されている工芸祭を情報としてネットワークして発信するプログラムと自主企画の展覧会があり、その両方で企画が成り立っています。

金沢には工芸にまつわる様々なコンテンツがあります。作家も暮らしやすく、ここで生活しています。そういった工芸のある生活空間を含めて魅力をお伝えできればと思います。お客さまにとって、あまりストレスを感じずに工芸が楽しめるような環境を整備していきたいと思っています。

アートフェアの次の目標になると思いますが、参加ギャラリー数を増やしていき、日本一の工芸のフェアになっていけばいいなと思います。買う楽しみを体験してもらいたいですね。

アートフェアに馴染みのない方も多いとは思いますが、ギャラリーに入るよりずっと敷居が低いので気楽に来場してもらえたらと思います。気に入ったものがあれば購入できるのがアートフェアのいいところなので、気に入るものを見つけてもらえればと思います。約30のギャラリーが150名以上の作家を紹介しています。普段であれば、一つ二つのギャラリーを回るだけで終わりそうですが、一度に30軒ほどが回れるので、楽しさ倍増です。ギャラリーの主人や出展作家も在廊しているので、お話を聞くこともできます。ぜひKOGEIやアートの入門の場として見てもらえるといいですね。

ハイテク化社会こそ「工芸」を求めている


東京芸術大学名誉教授(金沢21世紀美術館特任館長)秋元雄史さん

──なぜいま「KOGEI」なのか。また工芸の世界への関心や共感をどう生み出していくと良いと考えられますか。

アートは嗜好品であり、自分の内側からくる感情から興味が生まれるので、それぞれ皆さんの理解に任せるしかありませんが、ファインアートと違って身につけられる装飾品や、カップ、お皿など実用的に使えるものも多いので、親しみやすいと思います。生活の中に取り入れることができる工芸の魅力はこれまで同様にあると思います。

自分だけのこだわりや好みを反映させることができるという点は、高級といえども量産化されたデザインとは異なるところです。工芸は手作りだからこそ、一品一品微妙に異なります。それを楽しむことが工芸を楽しむことです。

さらにそれを発展させてアートピースとして工芸を楽しむということもできます。アート化する工芸の楽しみです。こちらは、絵画や彫刻、オブジェと同様に、インテリアとして取り入れてもいいと思います。

このように自分の趣味趣向を満足させるものとして工芸を捉えればいいと思いますが、一方で、工芸に思想性や社会的なメッセージ性を読み取る人たちもいます。こちらは一種の社会運動としての工芸とも言えるものです。自然環境の問題や有限な天然資源の問題など、工芸素材と関連づきそうなテーマも現代社会の問題としてクローズアップされています。

改めて、KOGEIとは何かを考えてみると今の社会が見えてくるかもしれません。ハイテク化された現代社会のなかで手で生み出された工芸の価値に気づくことは、私たちの生活を豊かにしてくれるでしょう。

東京芸術大学名誉教授(金沢21世紀美術館特任館長)秋元雄史さん

秋元雄史◎東京藝術大学名誉教授、練馬区立美術館館長、金沢21世紀美術館特任館長、台湾の国立台南芸術大学栄誉教授。1955年生まれ。東京藝術大学美術学部卒業。1991年からベネッセアートサイト直島のアートプロジェクトに携わる。2004年より地中美術館館長、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターを兼務。2007年4月~2017年3月金沢21世紀美術館館長。2015年4月~2021年3月東京藝術大学大学美術館館長・教授。2018年4月~練馬区立美術館館長。2021年から、北陸三県を跨ぐ工芸祭『GO FOR KOGEI』、『KUTANism(クタニズム)』をディレクション。著書には『アート思考』(プレジデント社)、『直島誕生』(ディスカバリー21)など。

文=督あかり 写真=広村浩一(Moog LLC.)

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