新型コロナウイルスに感染した妊婦は、入院や、集中治療室(ICU)への収容のリスクが高くなることは、今では定説になっている。その一方で、子宮内で胎児や胎児周辺の組織がこうむる悪影響については、出産前の妊婦を対象とした具体的な研究が非常に少ない。さらに、新型コロナウイルス感染後の胎盤や胎児に生じる変化について、変異株ごとに分類して研究したものとなると、その数はさらに少なくなる。
ウイーン医科大学の研究チームは今回、この非常に重大な研究の空白地帯を埋めようと、出生前MRI検査を用いて、妊娠中に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性判定を受けた女性の胎盤や胎児の状態を検証した。研究チームは、胎児MRI検査を実施することで、胎盤組織に関する直接的な情報を得て、胎児の臓器の状態を細かく分析することができた。
この研究では、前向き症例対照 の手法を用いて、2020年7月から2022年7月にかけて、76件の出生前MRI検査(うち38件は新型コロナウイルス感染後の検査、残り38件は対照群の検査)を実施した。新型コロナウイルス変異株の特定には、ダイレクトシークエンス法 、リアルタイムRT-PCR 融解曲線解析 、もしくは感染時期による推定が用いられた。
対象者は、オミクロン株グループ(これにも複数の亜型がある) と、オミクロン株が出現する以前のグループに分けられた。MRIが実施された時期は、最初にPCR検査で陽性判定が出た日から、平均で83日後だった。それぞれの事例は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生前に実施された、このウイルスに感染していない妊婦のMRI検査1件とマッチングされた。
その結果、オミクロン株以前のウイルスや、オミクロン株の亜型に妊婦が感染した後の胎盤では、感染していない対照群と比較して、胎児の障害と関連付けられる、血管に起因する病変が起きる頻度が上昇することがわかった。これらの問題は、オミクロン株の亜型よりも、オミクロン株以前の変異株の症例に、より顕著に見受けられた。