「フェス」ビジネスに異状あり。コロナ制限撤廃でも元の姿には戻らない


観客は世界中から集まるが、西海岸都市の富裕層には、会場周辺の高級ホテルや貸し別荘に泊まり込み、日夜パーティーに興じる「クールな社交の場」として強く認識され、価値の高い「マスト・アテンド」イベントとなっている。

筆者も幾度も参加した経験があるが、飲食持ち込み禁止の会場内で水のボトルが15ドル、バーガーが30ドル、Tシャツも50ドルと、販売価格が毎年上昇を続けているにも関わらず売店には長蛇の列が絶えない。

金に糸目をつけないことがクールと見做される、「特殊な体験空間」事業との印象を強く受けた。
コーチェラ・フェスティバル2022(Photo by Matt Winkelmeyer/Getty Images for Coachella)

コーチェラ・フェスティバル2022(Photo by Matt Winkelmeyer/Getty Images for Coachella)

「フェス」形成の起源

音楽フェスは、1954年に米ロードアイランド州でジャズの勉強会や実演を編成して1万人余の観客を集めた、『Newport Jazz Festival(ニューポート・ジャズ・フェスティバル)』が起源とされている。

その後、67年にミック・ジャガーやポール・マッカートニーも発起人に名を連ねた『Monterey Pop Festival(モントレー・ポップ・フェス)』が米カリフォルニア州で誕生した。全ての出演者を同等に扱うことをポリシーとし、ザ・フー、ジミー・ヘンドリックス、ジャニス・ジャップリンなどのアーティストが3日間集結して、大成功を収めた。

69年には、伝説のフェスと語り継がれる『Woodstock Music and Art Festival(ウッドストック)』が米ニューヨーク州北部の田舎町ベセルで開催され、当時のヒッピー文化を象徴する、この愛と平和の祭典に、数万人との想定をはるかに超える50万人が押し寄せた。

以降、フェスとは単にアーティストの演奏を楽しむだけでなく、参加者が集結して相互交流を行うことに価値が見出されるものと、定義が書き換えられた。

そして、後に世界最大級と言われるまでに成長する英国の『Glastonbury Festival(グラストンベリー)』や、米国で3大ロックフェスと言われるようになるシカゴの『Lollapalooza(ロラパルーザ)』が、より商業性を持つポップスとロックを編成する形式で創始され、現代の発展へと至っている。
グラストンベリー2022(Photo by Matt Cardy/Getty Images)

グラストンベリー2022(Photo by Matt Cardy/Getty Images)

二強の独占、このまま進むか

世界中に広がりを見せたフェスはここ10年間で、米国の二大音楽興行会社であるライブネーションとAEG(アンシュッツ・エンターテイメント・グループ)によって、興行権の買収が進められた。

前述のコーチェラはAEGが2001年に主催社Goldenvoiceを傘下に収め、同様にロラパルーザともう一つの米3大ロックフェス『Bonnaroo Music & Arts Festival(ボナルー)』もライブネーションによって主催社が2014年と2016年に買収され、両社の下に開催されている。
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文=北谷賢司 編集=宇藤智子

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