「見える化」データの力で社会を変える民間主導の団体
高島宏平(以下、高島):DST共同代表理事の高島と申します。経済界、教育者、起業家の方など、発起人の皆様が素晴らしいメンバーであることを嬉しく思っております。私は、2019年に「負担増世代が考える社会保障改革委員会」を設立して、議論していくプロセスの中で、ヒアリングしたり勉強会を重ねて参りました。そこで、新しい団体を作ってしまった方がいいのではないかという結論で今日の設立に至りました。オイシックス・ラ・大地 代表取締役社長 高島宏平氏
社会保障額が増加した理由は、「事後」。つまり病気になってしまった後など、大半が問題が起きた後に、初めて予算が使われていることがわかりました。その時に考えたのは、「予防しておけば医療費を使わなくて済むのではないか?」ということ。「事後領域」については、医療費や介護費などで対応する仕組みを国が作っています。
ところが、「事前領域」については、明確な効果検証の手法がないのが現状だったのです。そこで海外で事例がないかと調査したら、アメリカの「J-PAL」という団体が、発展途上国の貧困問題の一手として、子供達に腸の薬=駆虫薬を投与すれば、健康状態が良くなり、その結果として、子供達の進学率が高まることを判明し、ノーベル賞を受賞しました。このように、データを元に研究を行い、エビデンスを明確化し、社会を変えていくことができることを知ったので、民間主導でそれを日本でやろうとしているのが「DST」です。
私達のイメージでは、視聴率を「見える化」することでテレビ業界が巨大化していったビデオリサーチ社に近い動きと考えています。見切り発車なので、これから紆余曲折あるかと思いますが、データの力で社会を変えていきたいという思いは強く持っております。今日は、宜しくお願いします。
それぞれの発起人の方に伺っていきたいのですが、岩﨑さんのお立場から、データを使って社会を良くするチャンスや課題についてお聞かせ下さい。薬品メーカーでいらっしゃる岩﨑さんの本業は、「事後領域」ですが、そのあたりは、いかがでしょうか。
岩﨑真人(以下、岩﨑):いま、社会保障給付費が増えている要因として、医療・介護費の増加が問題視されていますが、平均寿命が世界でトップレベルの日本の医療制度は、ものすごくいいんですよね。ですから、大切なことは、医療の質を下げずにもっと効率的な医療を考えることです。
疫学データや特定テーマの臨床研究から分かることは多いですが、その周囲にある幅広い要素まで含めて評価しているわけでないため、その社会環境におけるベストな打ち手が解明されているとは言えません。今回の取り組みを通して、事前領域での適切な対応により病気にならなくていい人を病気にさせない、重症化しなくていい人を重症化させないことが大切です。介護の事前領域は医療、医療の事前領域は教育という考え方もあるので、事前領域に介入することで社会全体の効率化が図れると思います。
武田薬品工業 代表取締役 日本管掌 岩﨑真人氏(左から2番目)