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2023.01.19

2023年の展望についてVCが考えていること

2022年は様々な意味で記録的な年でした。まず、2年にもおよぶ厳しいコロナ禍からようやく世界が回復し始め、活動や交流が再開されるようになった年です。一方で、コロナ禍による経済悪化への対策として過剰な金融緩和を実施した結果、世界中でインフレが加速した年でもあります。

このインフレに対し、米国では中央銀行にあたるFRB(米連邦準備理事会)が金融引き締め姿勢を強め、その大幅な利上げにより資産バブルに唐突な終止符が打たれました。日本も後に続かなかったのは、意図的なのか、できない理由があったのかはわかりませんが、いずれにしても30年以上ぶりの記録的なドル高・円安が進む事態となりました。

金利が上がり、グロースアセット(テック株やクリプトなど)の価格が暴落する一方で、OpenAIの「DALL·E 2」や「ChatGPT」が想像を超えたAI技術で世界を驚かせ、逆境に差し込む希望の光となって現れた年でもありました。AI技術が今後具体的にどのように発展していくかは、もちろん現時点ではまだ誰にもわかりません。

しかし、スマホやクラウド技術の誕生がかつて世界を一変させたように、AIという巨大な追い風が次のテクノロジー革命を起こす目前まで来ていると予想する意見が多く見られます。

VCとしての今後の予想について記者や投資家からよく尋ねられますが、先のことは断言できないので基本的には回答を遠慮しています。それよりも、私たちが普段から支援させていただいている起業家たちのほうが、よほど未来を的確に予想できているでしょう(なんと言っても、起業家は未来の作り手ですから)。ただし、今後に向けて個人的に注目している点についてはいくつか紹介できます。

まず、スタートアップ界の今後を考える上で個人的に特に注目しているのが、資金調達環境です。もちろん、資金プールが完全に枯渇したわけでありません。しかし、スタートアップに対して以前より明らかに低いバリュエーションがつけられる傾向が今後強まることは言うまでもないでしょう。また、投資家が資金の使い道になおいっそう慎重になることが予想されるため、起業家としてもバーンレートの管理や投資家との関係構築にここ数年よりも注意深く取り組む必要があります。

実際、2022年には多くのスタートアップが資金調達を延期していますが、いつまでも先延ばしにできるものではありません。2023年には彼らの多くが資金調達活動を再開する可能性が高いでしょう。その時にバリュエーションを上げて調達できるかどうかは、今後の状況次第としか言えないのが現状です。

また、IPO市場がいつ回復するかという点にも注目しています。今年の後半にはインフレが落ち着き、FRBも金融引き締めを弱めると見込まれることから、その時期を予想する意見が多いようです。ただし、インフレには他にも様々な要因が関わってきます。特に、中国の突然の開放路線への変更は無視できません。

数年にわたるゼロコロナ政策で抑圧され、蓄積してきた需要が解放されることで、あらゆるものの価格が高騰する可能性があるのです。ウクライナ戦争の影響で既に高騰しているエネルギー価格も、中国需要の急回復によりさらに押し上げられるかもしれないということです。そして中国の活動再開による物価上昇圧力が強いほど、他国では金融引き締め策を継続せざるを得なくなるでしょう。
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文=James Riney

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