スマホで仮想空間の戦争ゲームに夢中になっているひとたちは、現実の危機を思い描く想像力が鈍感になってはいないでしょうか。それが気がかりでなりません。核戦争の危機はいま、我々の目の前にあるのです。それを実感するためにも、過去に持ち上がった核戦争の日々を追体験し、そこにわが身を置いてみようではありませんか。これから1962年10月に起きた「キューバ核ミサイル危機」の13日間をドキュメンタリーを共に見ながら危機の日々に分け入ってみましょう。
13日間のあの危機を「同時進行で体験」しよう
ただ、私たちは、キューバ危機は核戦争にならなかったという結果を知っています。それだけに、ドキュメンタリー番組には、ひとつの重大な落とし穴が潜んでいます。事件を体験した人々が意図的に嘘をついていないにしろ、結果が分かっている歴史的出来事では、どうしてもそれを知ったうえで自分を正当化した説明をしがちなのです。結果を知っている“後知恵”で、あの時、自分は何を考え、どう決断したのか、とテレビのインタビューに答えてしまいがちです。これから見るドキュメンタリー番組では、危機の日々の出来事をその瞬間、瞬間に記録していたテープに基づいて事実関係を構成しています。皆さんも、あの危機の日々の瞬間に身を置いて13日間の危機を同時進行で体験してほしいと思います。
渋谷教育学園中学校の6人の生徒さんと視聴するNHKの番組は、ワシントン支局が1998年に制作した『決定の瞬間〜記録されていたキューバ危機〜』です。当時、NHKワシントン支局長だった手嶋龍一がキャスターを務めています。ただ、今回の講義録では、1時間に及ぶドキュメンタリーをそのまま記録することはかないませんので、キューバ危機の事実関係を骨子だけを記しておきたいと思います。