アメリカ空軍の強硬派が主張するように、キューバを標的に米軍がミサイル攻撃を仕掛けたとしましょう。キューバにいるソ連軍もアメリカに反撃を試みるだけではない。ソ連や東ヨーロッパに展開している部隊も反撃に転じるおそれがありました。とりわけ焦点は、“冷戦の火薬庫“と言われたベルリンでした。
キューバ核ミサイル危機:事実関係その3
第二次世界大戦でナチス・ドイツが敗北すると、首都ベルリンは、英・米・仏の連合国とソ連の4カ国によって東西に分割して統治されることになりました。一方で、ドイツも東西に分割され、ベルリンは東ドイツの領域に浮かぶ“冷戦都市”となったのです。いったん有事になった時には、東側陣営は圧倒的な地上兵力で西ベルリンに侵攻すると考えられていたので、西側陣営は核兵器を使わなければ対抗できないと考えていました。「ベルリンはもう一つのキューバ危機だったのです」というくだりは極めて重要です。国際的な危機とは決して単独で存在するわけではありません。いくつかの危機が地下水脈を介して絡まりあっています。いまわれわれの目の前では、ウクライナの戦いと台湾海峡危機が同時に進行しています。
──具体的にはどう絡み合っているのでしょうか?(山澤)
2022年9月、ウクライナ戦争が始まって初めて、中国の習近平主席とロシアのプーチン大統領が、中央アジアのサマルカンドで会談しました。この時、習近平主席は「互いの核心的利益を強く支えあっていく」と述べ、これを受けてプーチン大統領は「1つの中国政策を厳守する」と応じています。つまり、中国にとって死活的に重要な「1つの中国政策」、表現を替えていえば、「台湾の独立を認めない」政策をロシアが支持してくれれば、中国は、プーチンのロシアにとっての核心的利益を認める、と明確に示しています。プーチン政権が新たに領域に併合した4つの州などもそのひとつでした。
このように一見すれば「別の戦争や危機」に見える、ウクライナの戦争と台湾海峡危機は、実は密接に絡み合っていることが分かると思います。歴史はそのまま繰り返す訳ではありませんが、現代史を学んでおくことは、いま皆さんの目の前で繰り広げている出来事の本質を理解する助けになることでしょう。