アルゼンチン代表とフランス代表、選手の力量を比べれば、確実に後者が上だった。連戦の疲れもあったろう、アルゼンチン代表は寝技の得意な柔術の選手のように、じわじわと相手の良さを消し、途中まで地味な試合に引き込み、2点差をリードした。
とはいえ、この大会で世界最高の選手としての力を見せつけたフランス代表のキリアン・エムバペは流石だった。彼は突出した個の力で、ハットトリック3得点を挙げて引分けにまで持ち込んだのだ。しかし彼のフランス代表はPK戦で敗れた。
同点ゴールを決め、喜ぶキリアン・エムバペとフランス代表選手達(Photo by Visionhaus/Getty Images)
勝因はチームのヒエラルキー
しばしば言われるように、ワールドカップではその大会で最良の選手がいる国が優勝することは少ない。前々回の2014年大会のリオネル・メッシ、2018年大会のルカ・モドリッチのいたクロアチア代表のようにだ(最良の選手がいる国が優勝したのは、1994年のロマーリオとブラジル代表にまで遡らなければならない)。今回の大会も同じだったといえる。
大会を通して冷静に分析すれば、優勝したアルゼンチン代表はフランス代表とブラジル代表に続く3番手以下だったろう。サッカーという偶然性に富んだスポーツにおいて、どのチームが強いのかを正当に測るには、各チーム総当たり2試合程度のリーグ戦を行うべきだ。
ただ、世界のトップ選手たちは過密スケジュールのなかで動いており、現実的にその手法は難しく、ワールドカップの決勝トーナメントは「一発勝負」にならざるを得ない。当然、番狂わせは起こる。
敢えて、アルゼンチン代表の勝因を考えると、ワールドカップという短期決戦での1つの法則にぶちあたる。それはチーム内のヒエラルキーがはっきりしたチームが強いということだ。
ずいぶん前、元ブラジル代表のソクラテスに、ジーコ、ファルカン、セレーゾ、そしてソクラテスという黄金の4人が揃っていたにもかかわらず、なぜセレソン(ブラジル代表)は優勝できなかったかと聞いたことがある。
彼は、サッカーは偶然性のスポーツであり、想定外のことが起こりうると前置きしたうえで、あのときのセレソンは能力の拮抗した4人の選手がいたこともあり、非常に「民主的」で、フラットな関係だった、最後の勝負どころでそれが影響したかもしれないと言った。
そして1986年大会のアルゼンチン代表のように、ヒエラルキーがはっきりしたチームの方が短期決戦では強いと。