FIFAワールドカップ、Netflix作品にもなった「暗黒の歴史」

FIFA前会長のゼップ・ブラッター氏(Photo by Pressefoto Ulmerullstein bild via Getty Images)


カタール大会でも疑惑 衝撃のカイリ欧州議会副議長逮捕


今カタール大会でも、海外では閉幕を待たずして、汚職スキャンダルの再発が大きく報道されている。

12月9日、欧州連合(EU)欧州議会のエバ・カイリ副議長(ギリシャ)ら4人が賄賂をカタールから受け取り、人権問題等を巡る議会決定に影響を与えた嫌疑でベルギーの捜査当局に逮捕されたのだ。家宅捜索で12日までの間に、約150万ユーロ(約2億2000万円)の現金が押収されたとロイターが報じている。

また、2019年にもカタール大会招致を巡る汚職捜査で、その後釈放されたものの、UEFA(欧州サッカー連盟)元会長のミシェル・プラティニ氏がフランス当局に身柄を拘束されている。

決勝戦の舞台となる8万人収容のルサイル・スタジアム
決勝戦の舞台となる8万人収容のルサイル・スタジアム(Photo by David Ramos/Getty Images)

カタールは、2022年大会に焦点を絞り、国是として招致活動を開始した。費用総額は2200億ドル(約30兆円)とされているが、経済効果は170億ドル(約2兆3000億円)と想定している。中東における存在感を世界に誇示することに主目的があり、その目標に協力した者は天然ガス、原油資金が豊富なカタールから、国家レベルの取引も含め、巨大な利権を手にしたと考えられている。

前回の2018年ロシア大会の招致でも、プーチン大統領の側近財界人たちが資金を提供し、FIFA理事による投票のまとめ役となる地域連盟の幹部たちに多額の利権がオファーされたことが疑われている。

ゼップ・ブラッターFIFA前会長(Photo by Pressefoto Ulmerullstein bild via Getty Images)
ゼップ・ブラッターFIFA前会長(Photo by Pressefoto Ulmerullstein bild via Getty Images)

一国一票の制度で鍵を握る、アフリカと北中米カリブ海勢


贈収賄は、正規の金融取引を回避し、現金やマネーロンダリングなど巧妙な手口が使われるため立件が難しい。しかし、2015年には米司法省によって、FIFA元副会長でCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)元会長のジャック・ワーナー氏(トリニダード・トバゴ)ら多数の幹部、関係者が様々な罪状で起訴された。

元FIFA理事でCONCACAF元事務局長の故チャック・ブレイザー氏(アメリカ)の情報提供によるところが大きかった。

ブレイザー氏自身も、2010年の南アフリカ大会招致に際して、票の取り纏めで共謀したワーナー元副会長から100万ドルを受け取ったことを認めている。ワーナー氏が便宜捏造したアフリカから離散されたカリブ海周辺の「ディアスポラ支援」の資金として、南アフリカからFIFAを通してワーナー氏に支払われた1千万ドルの一部だった。

一見内部告発のようにも見えたが、実際には自身の脱税等に長期刑を示唆したFBI、IRS(米国歳入庁)との司法取引による行動だった。ブレイザー氏が幹部らの会話を録音したことで犯罪が証明され、FIFAの犯罪組織性が指摘された。

ブラッター前会長は、米当局から起訴されることなく、FIFA会長に5選して続投を表明していたが、4日後に辞任。その後、2011年にプラティニ氏に200万スイスフラン(約2億4000万円)を不正に支払ったとの問題で、8年(後に6年に短縮)の活動停止処分となった。

元FIFA理事/CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)元事務局長の故チャック・ブレイザー氏(Photo by Christof Koepsel - FIFA/FIFA via Getty Images)
元FIFA理事/CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)元事務局長の故チャック・ブレイザー氏(Photo by Christof Koepsel - FIFA/FIFA via Getty Images)
次ページ > 尽きない「スポーツウォッシング」

文=北谷賢司 編集=宇藤智子

タグ:

連載

Forbes Sports

ForbesBrandVoice

人気記事