ソニーがマンCとの協業発表で「メタバース」という言葉を避けた理由

(c)SONY

電機メーカーとして創業し、エンターテインメントや金融まで幅広く事業を手掛けるソニーは、スポーツをどう変え、どんな未来を創造しようとしているのか──。

ソニーは昨年11月30日、マンチェスター・シティ・フットボール・クラブ(以下、マンチェスター・シティ)とオフィシャル・バーチャル・ファンエンゲージメント・パートナーシップ契約を締結、次世代のオンラインファンコミュニティの実現とファンエンゲージメントの最大化を目指し、協業していくという。

「バーチャル・ファンエンゲージメント」とは、具体的にはどういうことだろうか?

ニュースリリースには、「仮想空間上の新たなファンコミュニティの実現」を目指し、マンチェスター・シティのホームスタジアムであるエティハド・スタジアム(英国・マンチェスター)を仮想空間上にリアルに再現する、とある。

つまり、仮想のエティハド・スタジアムに世界中からファンが集まり、選手やチームを「身近に」感じながら、ファン同士が交流できる。ファンは自由にカスタマイズ可能な自身の「アバター」を作成することで、チームにかける想いや情熱を表現して、「エンゲージメントを高められる」ようになるらしい。

音楽、映画、ゲームときて、次にスポーツ。グループ全体で貢献


スポーツの楽しみ方を近い将来劇的に変えそうな、このプロジェクトはどういった経緯で生まれたのか。開発チームのリーダーであるソニーグループ執行役員の山口周吾氏が語る。

「まず、ソニーグループとスポーツの関係からお話しすると、ソニーミュージックはいろいろなスポーツの演出を手がけていたり、海外ではスポーツ選手のマネジメントを行っているケースもあります。このようにスポーツに関連するテーマにいろいろな部署が取り組んでいるので、グループ全体が力を組み合わせて取り組んだら、もっとスポーツという業界全体、コミュニティに対して貢献ができるんじゃないかという話は、以前から出ていました。

アーティストをサポートして舞台を用意し、ファンに楽しんでもらうということを、ソニーミュージックはずっとやってきています。そのノウハウはスポーツでも生きるのではないかと。音楽、映画、ゲームときて、次にテーマとして上がったのがスポーツだったということですね」

「自身のキャリアで初めて上司に申し出て、このプロジェクトを推進するための部署を作ってもらった」と語る山口周吾氏
「自身のキャリアで初めて上司に申し出て、このプロジェクトを推進するための部署を作ってもらった」と語る山口氏

デジタル技術やエンタメの知見で「スポーツ全体」を盛り上げる


マンチェスター・シティとの出会いは、ソニーの「ある技術」がきっかけになったという。

ソニーグループには「ホークアイ イノベーションズ(以下、ホークアイ)」という会社がある。同社のトラッキングシステムは、映像から選手やボールの動きを解析することにより、走行距離や速度などをデータ化できる。サッカーや野球などに活用されており、その経験も今回のプロジェクトに影響しているそうだ。

「2020年10月に横浜F・マリノス(以下、F・マリノス)さんと『テクノロジー&エンターテインメント分野でパートナーシップに向けた意向確認書』を締結しました。ホークアイのシステムを選手の育成に活用するとともに、そこから得られたデータを使ってファンの方との結びつきを強くするというのが2大テーマでした。

F・マリノスがシティフットボールグループの出資を受けているチームだったので、その後いろいろ活動していく中でつながりができ、グループの核チームであるマンチェスター・シティに辿り着いたというのが経緯です」

ソニーグループ・事業開発プラットフォーム新規事業探索部門コーポレートプロジェクト推進部統括部長の小松正茂氏はそう振り返る。
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文=定家励子(パラサポWEB) 写真=吉永和久

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