このファンド(基金)は、「世界と伍(ご)する研究大学」を育てようと、国が大学への給付金を継続的にねん出するための仕組みだ。大学ファンドの存在意義、運用の基本方針について、どのように決めたのかを解説する。さらに、いま選定が進められている、どのような大学にどのような条件で配るかについて、私の意見を述べておきたい。
大学ファンドは、10兆円規模で設立され、今年の春から運用が開始されている。2024年度から大学への給付金の支給が始まる予定だ。大学ファンドの10兆円のうち、返済する必要のない、いわば自己資本が1.1兆円、財政投融資からの借り入れが8.9兆円である。
ファンド運用で元本10兆円の3%(3000億円)を毎年、大学へ支給の予定なので、運用環境の変動に備えるためにもある程度のバッファーを積みたい。中期的には5%程度で回すことを目標とすべきである。そのため、内外株式に65%、債券に35%というポートフォリオがベンチマークである。
欧米の大学の大学ファンドは、寄付金などを積み立てて運用する基金のことで、過去20年間、運用をプロフェッショナルに任せることでリターンが上昇、基金の規模も急拡大して、いまでは大学の運営費の大きな部分を賄うまでになった。
日本では、東京大学の基金が、21年度末で、運用資産が180億円である。一方、アメリカの大学基金の規模は、ハーバード大学が532億ドル(1ドル140円換算で、7.4兆円)で、東大基金の400倍。イェール大学が423億ドル(同6兆円)で東大基金の330倍である。大学基金の規模では、日米の差は絶望的に開いてしまった。
大学ファンドからは、毎年3000億円を5〜7校に配分するとしている。1校あたり約500億円が配分されるが、これは、東大に配分されている運営費交付金870億円と比べても、大きな金額である。大学の研究力を大変革させるには十分な額だ。
大学の役割には、教育、研究、社会貢献があるが、20年にわたる運営費交付金が減額されるなかで、いちばんのしわ寄せを食ったのが研究、しかも若手の研究者への支援である。今回の大学ファンドは、この失われた20年を一気に取り戻すための起爆剤である。
大学発の研究が社会全体のイノベーションに貢献する公共財だとすると、国による補助金注入は、正しく運営される条件つきで、十分に正当化される。