第一話:研究者から上場企業経営者に 医療スタートアップCEOの一貫した姿勢
"Nice-to-have"ではなく"Painkiller"を作れ
──DTx(デジタルセラピューティクス:デジタル技術を使い、病気の予防や診断、治療を行うこと)の領域はまだまだ日本に事例が少ないなかで上場されました。どのようにして事業を構想していくことが重要でしょうか。
DTxは数ある治療手段の一つです。なので事業開発においては、モダリティ(治療手段の種別)開発の考え方が参考になると考えています。
新規モダリティ開発においては、まずニーズがあって、かつ既存モダリティでは解決できないこと、つまりNice-to-have(あったらいいな)ではなくPainkiller(お金を払ってでも解決したい悩みを解消するような魅力的なもの)であることが重要であるとされています。
DTx開発においても、既存の治療法では解決できないメディカルニーズをDTxという手段で解決できるのかどうかがすべてであり、それが満たされていないものは普及しえません。
──どの疾患を対象としていくのかの市場選定が重要かと思います。選定の際に大切にされていることがあればお聞かせください。
まずはアンメット・メディカルニーズ(満たされていない医療ニーズ)から入ること。実際にどの程度ニーズがあるかを見極めることです。
これは製薬メーカーにおける新薬開発も同じ判断基準だと思います。
患者数やマーケットサイズだけでなく、既存の医薬品では解決できないニーズがあるかどうか。マーケットが小さい、いわゆる希少疾患と言われるようなものに対してでも、強烈なアンメット・メディカルニーズがあるのなら、そこは検討する価値があるのです。
私たちも製薬メーカー同様に、いくつかパイプラインを同時検討するプロセスを事業開発に組み込んでいますが、アンメット・メディカルニーズが明確で、既存医薬品ではなくDTxだからこそ解決できるテーマを選定して開発着手しています。
──アンメット・メディカルニーズの強弱はなかなか定量的には判断しづらい部分かと思います。どのようにして見極めをされていますか?
それについては臨床医としての感覚が前提としてありながらも、実際に医療現場で専門の先生方とコミュニケーションし、課題ヒアリングをしています。
そのうえで事業開発メンバーと市場性や医薬品と比べた競合優位性を同時に見ていきます。
事業と臨床の両方の観点から総合判断して見極めをしています。