日揮グループは、なぜ培養肉に挑むのか 「オルガノイドファーム」の原動力

日揮 未来戦略室 担当マネージャー/オルガノイドファーム 代表取締役の山木 多恵子氏


そしてもうひとつが、オルガノイドファームも取り組んでいる、牛や豚などの動物の細胞からつくる培養肉です。


知財図鑑/クリエイティブカンパニーKonel代表の出村光世

出村:培養肉は世界的に見てもまだ実用化に向けて発展途上な技術ですが、日揮グループという歴史ある企業が着手した理由はなんでしょうか。

山木:日揮グループの主な事業は総合エンジニアリング事業です。各種プラントの設計、機材の調達から建設、メンテナンスまで一気通貫で請け負っています。プラントというと巨大な石油やガスの精製設備や発電所などをイメージする方が多いですが、実は日本国内では病院建設や医薬品の製造工場も得意な分野です。

そういったヘルスケア、ライフサイエンスの分野で私たちの長所を活かした新規事業ができないかとずっと検討しており、それが2021年11月29日の「いい肉の日」に形になりました。市場が確立しておらず商品自体も研究開発の段階にある事業を別の子会社として活動させるのは、日揮として初めての試みでした。

「オルガノイド技術」とは


出村:オルガノイドファームは「オルガノイド技術」という培養肉のコア技術をお持ちで、研究を進めていますよね。技術の概要についても教えていただけますか?


オルガノイドファームのビジョンは「幸せをあきらめない地球へ」。こういう時代だからこそ、また新しい価値をつくっていこうという前向きなコピーにしたという

山木:「器官(organ)」と「〜に類似したもの(-oid)」の造語で、立体的な「ミニ臓器」を細胞培養でつくる技術です。普通は細胞を試験管内で培養するとバラバラ・ドロドロになってしまうんですけど、このオルガノイド技術を使うと三次元的な塊というか、本当に小さな臓器のようなものがつくり出せる。

食肉組織から特定の幹細胞を取り出し、効率よく培養して食肉オルガノイドと呼ばれる組織体を作成する手法を適用しています。開発にあたっては、横浜市立大学の保有するオルガノイド作成技術を食料生産へ応用するための特許ライセンス契約を締結していて、商業化に向けた研究を行っています。



出村:元々は医療分野の技術なのでしょうか?

山木:そうですね、主に再生医療の分野で発達してきた技術ですが、私たちはこれを食料生産・農業に応用していこうという意思の元、「オルガノイドファーム」という社名をつけました。ポイントとしては、余計な材料を使わずに細胞自らの力で組織化して機能を持った臓器が自然にできるという点です。肝臓、脳、腸など動物のさまざまな部位が研究所では実験的につくられています。
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文=出村光世 撮影協力=ARCH 虎ノ門ヒルズインキュベーションセンター

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