前回に続き、米国のウェルビーイング(幸福)テックへ投資を行う日本人投資家の奥本直子さんに、その可能性や役割についてうかがいます。
前回記事:シリコンバレー「心の落とし穴」に学ぶ、起業家のメンタル維持
ウェルビーイングテックとは
内山:奥本さんのファンドが投資されている「ウェルビーイングテック」という市場は、日本にはまだまだ浸透していないように感じます。どのようなテクノロジーを指すのでしょうか?
奥本:前回はメンタルヘルスにフォーカスしてお話ししましたが、ウェルビーイングテックがカバーするのは、精神や肉体の健康だけではありません。対人関係の幸福、パーフォーマンスの向上など日々の生活に関わる幅広いテクノロジーが含まれます。
新しい働き方、健康寿命、職場や住環境、フードテックなど、人の生活に関わるすべての領域を網羅しています。
クレディ・スイスが2021年に発表したレポートによると、ウェルネスやウェルビーイングの市場規模は、2022年現在750兆円にのぼると言われています。
内山:奥本さんたちのファンドは、どのような企業に投資されていますか?
奥本:例えば、呼吸法にフォーカスしたBreathwrk(ブレスワーク)があります。創業者は26歳の若者で、自身の経験がサービスの元になっています。
彼は学生時代に鬱になり、精神科医にかかったり薬を服用していましたが、結果は思わしくなかったそうです。そんな時に「自律神経をコントロールする唯一の方法は呼吸である」という事実を知り、呼吸法を実践して、本来の自分を取り戻すことができたと語っています。
その方法を多くの人に伝えるためにBreathwrkという呼吸法を教えるアプリを始めました。
内山:なるほど。アプリなどテクノロジーを駆使していても、手法としては従来からある呼吸法やコーチングが主流なのでしょうか。私としては、テクノロジーでもっと解決できることはないだろうかと考えてしまいます。
例えば、幸せホルモンの量を数値化し、テクノロジーを使って幸福感をコントールする、といったことです。
奥本:私は、ウェルビーイングテックはデータビジネスだと捉えています。
この領域が近年注目されているのも、センサー技術の発展により、今まで計測できなかった人間のウェルビーイングに関するデータが収集できるようになったからだと考えています。