初回のゲストは日本人投資家の奥本直子(おくもと・なおこ)さん。2021年にベンチャーキャピタルを立ち上げ、アメリカのウェルビーイングテックに投資を行っている方です。特にシリコンバレーの起業家は、競争社会のなかで高いパフォーマンスを求められ、強いストレスにさらされています。
シリコンバレーの「メンタルヘルス事情」、そして現地の起業家たちが実践する心の健康を保つ方法を奥本さんに聞きました。
成人の4割が精神疾患
奥本:実際にシリコンバレーに住まわれてみて、内山さんはどのような印象を持ちましたか?
内山:まず、天気の良さに驚きました。外に出てこの日差しを浴びれば、どんなにつらいことがあっても「またがんばろう」と前を向けます。シリコンバレーの気候は、多くの起業家の活力になっているのではないでしょうか。
しかし、他方では、シリコンバレーに進出した外国人起業家が陥る「穴」のようなものがあるとも感じています。
例えば、日本人にとっての海外展開は「海を越えて見知らぬ土地に行く」というイメージです。そのため「この事業が好きだ」「この事業で世の中を変えたい」というもともと持っていた想いが、「海外でも絶対に勝つぞ」「海外で成功してやる」という勝ち負けへのこだわりに変化していく傾向があります。
それらが行き過ぎて、バーンアウト(燃え尽き症候群)や鬱になる経営者が多いと最近知りました。私自身も、少しだけその「穴」にはまりかけていました。
奥本:そうだったんですね。実は、CDC(疾病対策予防センター)によると、アメリカでは成人の40%が何らかの精神疾患を抱えているといいます。メンタルヘルスの問題は、海外からの赴任者に限らず、アメリカ全土で問題視されています。
バイデン大統領も、一般教書演説にて「メンタルヘルスのサポートは国としての最重要課題のひとつ」とするほど注目されており、国家的に取り組みが進んでいます。
起業家が陥る、ドーパミンのループ
奥本:シリコンバレーも例外ではなく、メンタルヘルス系のサービスへの需要は急増しています。GoogleやFacebookなどの大手IT企業では、ウェルビーイング経営の一環として、企業が従業員の精神衛生をサポートすることが当たり前になっています。心に闇や不安、心配事があると、どんなにがんばっても最高のパフォーマンスは発揮できないと、企業も認識しているためです。
内山:なるほど。企業のトップ層やハイパフォーマーが、心と身体の健康を保ちながら最前線を走り続けるのは難しいことですよね。