奥本:そうですね。特にシリコンバレーは、常に効率的に成果を出すことが求められます。成果と引き換えに強いストレスを抱えてしまうことも少なくありません。
また、シリコンバレーの人口の半数以上は移民です。自国ですでに成功してる方が多く、それゆえに高いパフォーマンスを求められるし、自分自身にも求めがちです。こうした「心の落とし穴」があるんです。
内山:私も含め、起業家や経営者は事業の成功に大きな幸せや喜びを感じます。
しかし、その時に分泌されるドーパミンは一時的なもので、中毒性があります。一度目標を達成して幸せを感じたとしても、ドーパミンがなくなれば、すぐにまた次の目標を求めてしまいます。そして、気付かないうちにドーパミンを求めるエンドレスのループに入ってしまい、いつまでたっても幸せになれない……。
そんな話を本で読みました。シリコンバレーの経営者たちは、そのループの一番強烈なところにいるように感じます。
奥本:そうですね。ものすごくハイレベルな競争社会に身を置き、優秀な人しかいない環境で働いています。そして、一生懸命仕事をした後は、社外でネットワーク活動をしたり、健康と体型維持のためにエクササイズをすることも欠かさない。
内山:気を抜く瞬間がありませんよね。
奥本:本当にそうだと思います。シリコンバレーの経営者には、目標達成によって喜びを見出す方も多いですが、心の健康を保つには、ドーパミン以外にも大事な神経伝達物質が2つあります。それはセロトニンとオキシトシンです。
ドーパミンを含む3つの物質がバランスよく分泌されることで、人々は心の平穏を保ったり、何かに打ち込むことができるのです。
内山:精神科医、樺沢紫苑さんの「幸せの三段重理論」を思い出しました。
最下層に健康や安心によって幸福を感じるセロトニンのレイヤーがあり、その上が人との繋がりや愛情によって分泌されるオキシトシン、最上部に成功や目標達成によって幸せを感じるドーパミンがあります。
奥本:成功者たちは「より多くの目標を達成したら(もっとドーパミンが出たら)より幸せになれるんじゃないか。充実感を得られるんじゃないか」という考えに陥りがちです。
しかし、ドーパミン的幸福を追い求めても幸せになれるとは限りません。ドーパミン的幸福を支えるセロトニン的、オキシトシン的幸福も大切で、これらを下から順番に積み上げていく必要があります。