内山:実際に精神的不調をケアするには、どのような方法がありますか?現地には、日本にはまだ知られていない手法もあるのでしょうか。
奥本:最近注目されているのは、植物由来成分や合成薬品を利用したメンタルケアの手法です。この手法は「サイケデリック」と称され、最近ではサイケデリックに関するドキュメンタリー番組「心と意識と」がNetflixで放映されて話題になりました。
これまで幻覚剤や麻薬として禁止されていたような物質の研究が進み、合法となった州もあります。投資対象としても注目を集めています。
ただ、手法として一般的なのは、精神科医やセラピストとの会話を通して自己肯定感を高めていくような、従来からある方法ですね。企業のトップやエグゼクティブ層はコーチングを受けている方が多いです。壁打ち相手や伴走役を見つけて悩みを打ち明けたり、相談にのってもらう方もいます。
内山:日本では、自分に精神的な疾患があることを隠す傾向が強いですよね。
奥本:そうですね。アメリカでは、精神疾患も風邪と同じように捉えられています。誰もがかかるし、かかったとしても適切に治療すれば回復するという認識が一般的です。
マイクロソフトのCEO兼会長のサティア・ナデラさん、セールスフォースCEO兼会長のマーク・ベニオフさんなど、企業のトップが自らメンタルヘルスケアについて発信することも増えています。
そのため、学校教育のなかでも精神疾患について語られますし、親が子どもに対して「家族に話しづらいなら、セラピーを受けてみよう」と声をかけることも珍しくありません。
内山:日本には、精神疾患について話すこと自体がタブーかのような風潮があるなかで、ウェルビーイングの領域に投資されている奥本さんや、奥本さんのファンドの先見性には頭が下がります。
次回は、ウェルビーイングテックに期待される可能性や役割について聞かせてください。
奥本直子(おくもとなおこ)◎ボストン大学大学院修士課程修了後、シリコンバレーに拠点を移し、米マイクロソフトに勤務。2003年に米国ヤフー本社でジョイント・ベンチャー統括担当バイス・プレジデントを務める。2014年にベンチャー・キャピタルWiLの創業に参画。2017年に独立し、日米間の投資&事業開発のアドバイザリー会社を創業。2021年、Niremia Collectiveを創業しスタートアップ投資を開始。世界最大のウェルビーイング・テクノロジー推進団体のボード・アドバイザーならびに日本・アジア支局代表、またCoinDesk Japanの取締役も務める。