家庭でも今夜から育つルール形成力 小学生も「クリティカルシンキング」で

話し合いに参加する東小学校の生徒

求められているのは大人の変化


2020年3月に策定されたつくば市の教育大綱には、「一人ひとりが幸せな人生を送ること」が最上位目標に掲げられている。この教育大綱も、つくば市の中高生のタウンミーティングから生まれたものだ。学びの主役は子どもたち。「近代公教育が抱えてきた課題を踏まえ、考え方の転換を目指す」として、以下の3つの点が記されている。

1.「教え」から「学び」へ(一斉・一方向教育から個別・双方向の学びへ)
2. 「管理」から「自己決定」へ(受動から能動へ)
3. 「認知能力偏重」から「非認知能力の再認識」へ(知識偏重の教育から全人教育へ)

五十嵐市長は、「教育大綱に謳ったように、今回の全小中学校でのルールメイキングの取り組みは、自立した市民を育成するために導入しました」と語る。

大人に与えられた既存のルールを「決まりだから」という理由だけで「守る」子どもを育てるのではなく、ルールの本質について考え、対話を繰り返しながら「つくる」ことのできる子どもたちを育てることが目的だ。

クリティカルシンキング(批判的思考・精神)も必要


今回のキックオフで出てきた意見について、当日、東小学校に視察に来た教育長の森田さんは、次のように感想を述べた。

「子どもたちは制限されていることに慣れています。今日も『先生の言ったこと以外には使わない』という意見がありましたが、ルールメイキングをきっかけにその発想から変えていきたい。最初は今日のように細かいきまりがたくさん出てくると思いますが、これじゃキリがないぞと子どもたちが気がつくかもしれませんよね。そこからどうまとめていくか。そのようにして自分の気持ちが変化していくプロセスも大事です。

誰でも、言われたとおりにやるだけではなく、自分たちで考え、話し合って、納得ができる形でやるほうが楽しい。それは小学生も同じです。子どもたちにとって学校が楽しい場所になってほしいのです」



そのためにはクリティカルシンキング(批判的思考・精神)も必要となる。前提条件に問いを投げかけ、根源的な問いを立て考える力のことだ。クリティカルシンキングは海外の教育現場では重要視されているが、日本の教育現場ではこれまであまり語られてこなかった。周りの空気を読んで声を上げられない大人も多い。

新学習指導要領のコンセプト「主体的・対話的で深い学び」は、クリティカルシンキングなしには語れない。さらに、ルールメイキングで意見が分かれたときには、大人でも難しい「対話」を進める必要がある。

全国で初めて小学校から取り組むことについて、五十嵐市長はこのように明言した。

「子どもはルールを考えることなどできないと決めつけてしまう大人がもしいるとしたら、それはとても罪深いことです。つくば市は、“どうせ子どもはできないから厳しく管理する”という思考から大人たちも早く脱却し、子どもたちを信頼して任せていかなければならないと考えています。カタリバのルールメイキングのスタンスは、つくば市の目指す学びそのものです」
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文=太田美由紀

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