高城:劇中の車内の映像は、基本的にすべて無人です。ソニーの純正レンズでオートフォーカス機能を使えば、誰でもそれなりに撮れる。スマートフォンのカメラ機能がどんどんよくなって、今日から撮りはじめた中学生と、この道30年のプロのカメラマンが、年々差がなくなっています。技術と装置の既得権の塊だった映画製作が民主化されたんです。
四角:もう個人でハリウッドに対抗できる時代なんですね。この「表現活動の民主化」は、ぼくが掲げてきた「誰もがアーティストとして生きる社会」を加速させるので興奮します。映画の資金は、出資を募る製作委員会方式じゃなくて自前なんですよね。
高城:予算が通常の日本映画の数分の1ですからね。それと、メイン市場はスペイン語圏なんです。民主社会主義って日本ではあまり知られてないけど、今、南米や欧州で急速に支持されていますから。
ブラジルで左派のルラが大統領に返り咲き、世界ではじめて新自由主義がはじまったチリでは、30代が大統領になりました。。このあたりの国々は、反アメリカではなく、脱アメリカが進んでいます。グローバリゼーションの正体が実はアメリカナイゼーションだって、バレちゃいましたから。
四角:スペイン語が母国の国って中国語に次いで世界で2番目に多いから、マーケットとして高いポテンシャルがある。高城さんの発想は常に地球規模。
ちなみに高城さんには、世の中をよくしたいというロマンチシズムのようなものはあるんですか。ぼくは自分の活動が地球環境や社会の役に立てばいいな、という想いは常にあって。
高城:ないですね。なすがまま。世界の流れに沿って、転がる石のように生きています。しかも、その先頭を転がってるから、これから何が起こるだろうってことだけに興味がある。まあ、危ない未開の地に僕が切り込むことで、その後に続く勘の良い一部の人に、少しだけ役立つといいだろうな、程度には思ってます。続く彼らには、きっとロマンがあるでしょう。
例えばこの映画を通して「こんな可能性があるんだ」「ヨドバシで買ったカメラで映画を作れるんだ」ってことを、意欲的な人たちに気がついてもらえたら、クリエイター冥利につきますね。
四角:個人的には、その高城さんの思想にこそロマンを感じますね。最近ハマってることはありますか?
高城:映画の次はコーヒーを作ろうかと。ポストサードウェーブのコーヒーを生み出そうと、1カ月くらいエチオピアやキリマンジャロなどのコーヒーの産地を巡っていました。最終的には、これならいけるという生産プロセスを見つけたんですよ。
でも飽きっぽいから、またすぐ次にいくんだろうけど。僕の問題は、すごく飽きっぽいっていうのはあるかな。
四角:好きな人ができてもすぐ飽きちゃうんですか。
高城:一応、人とコトは別だと申し上げておきます(笑)。