新型コロナの根絶はおそらく不可能、感染症専門医が語る課題

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しばしば「新型コロナウイルスはなくすことができないのか?」という質問を受けることがある。その質問に対する意外に長い私の答えに驚く人も多い。

ウイルスに関する豊富な知識と高度な医学研究能力を持っているにもかかわらず、私たちがこれまでに撲滅できた人間の病気は天然痘だけだ。天然痘は、何百万人もの人命を奪い、無数の人を傷つけ、失明させ、生き残った人々にも醜い傷跡を残した、歴史上最も悲惨な災厄の一つだ。人類からこの病気を取り除くことができたことは、公衆衛生の輝かしい成果の一つなのだ。

そのため、新型コロナウイルスの撲滅の可能性を考えるとき、天然痘のどのような特性がその撲滅に寄与したのかを評価し、新型コロナウイルスの原因であるSARS-CoV-2ウイルス(新型コロナウイルス)がそれに比べてどうなのかを考えることは有益なことだ。

考えるべきは「1. ウイルスの特性」「2. 症状の現れ方」「3. ワクチンの特性」「4. 当時の社会の様相」という4つの側面だ。新型コロナウイルスに関して最もありえるシナリオは、世界的に広く感染が広がるパンデミックの脅威から、インフルエンザなどの季節性ウイルスと同様に集団で定期的に循環する風土病問題へと移行することだ。

1. ウイルスの特性


天然痘は人間にしか感染しない。またキャリア状態(無症状だが他者に感染させる状態)は存在しない。つまり、ウイルスを感染させながら無症状に留まる人や動物は存在しないのだ。もし、病気から回復したなら、それ以上感染させることはない。つまり、一度ヒトの間から病気をなくしてしまえば、将来再びヒトに感染する可能性のあるウイルスが動物によって保持され続けることもない。

だがSARS-CoV-2では事情は異なっている。このウイルスは自然界ではコウモリに感染し、猫、犬、フェレット、ハムスターといった人間のペットを含む他の動物にも感染する可能性がある。動物からヒトへの感染はあまり見られないとはいえ、仮のヒトの新型コロナウイルスを排除できたとしても、いずれ動物からヒトに感染が再び持ち込まれるというリスクは残る。
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翻訳=酒匂寛

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