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また、天然痘ワクチンのもう一つの重要な特性は、ワクチンの効力を維持するために冷蔵を必要としないことだ。このため公衆衛生担当者は世界の最も辺鄙な地域、電気のない地域でもワクチン接種ができた。
天然痘ワクチンは、使う直前まで瓶の中で凍結乾燥されていた。そして接種担当者が滅菌した注射液に溶かした生ワクチンを、小さなフォークのような形をした特殊な2本針で皮膚に接種したのだ。
このワクチンは、皮膚に局所的な膿のポケットを作り、消えない傷跡を残すので、ワクチンカードがなくても、ワクチン接種が成功したことを生涯にわたって証明することができる。使った注射針は、その日の作業後にまとめて煮沸消毒を行い、翌日には再利用することができた。ワクチン接種担当者は、機材を袋に詰めて、遠くまで出かけていくことができたのだ。
現在の新型コロナウイルスワクチンで同様のことを行うのは非常に困難だ。なぜなら、ワクチンを生存させるためには、電力線、発電機、バッテリーなどの電源が必要であり、それらは遠隔地ではそう簡単には調達できないからだ。
4. 社会の様相
天然痘の撲滅には、1900年代(20世紀)の社会的な様相も影響している。当時は移動人口が少なかった。天然痘は何世紀もかけて、船舶の速さで世界中を移動していた。これに対して新型コロナウイルスは、わずか数週間で、ジェット機のようなスピードで世界中を移動した。
1900年代にはまた、科学とワクチンが医療問題を解決することができると強く信じられていた。1947年にニューヨークで発生した天然痘の大流行では、防寒着を着た人々が予防接種を受けるために数ブロックに及ぶ長い列を作っている写真が残されている。これは皆の決意の表れだった。それが今、米国では新型コロナウイルスの出現から2年以上経過しているにもかかわらず、国民の66.7%しか予防接種を受けていない。
病気をなくすには、意思と行動の統一が必要なのだ。天然痘の根絶には、国際的な合意が大きな役割を果たした。実際、この動きを最初に提案したのは当時のソビエト連邦だったのだ。それがどういうわけか、今の私たちには、国際的にもアメリカ国内でも、そのような協力関係は実現できていないように思える。新型コロナウイルスは、統一的な対応策を構築する際の課題の多くを明らかにした。