取材を進めていて私も意外だったのは、女性が会社を辞める要因は、子育てと仕事の両立が大変だからと思われがちなんですが、実は仕事にやりがいが見い出せないから、なんですね。仕事にやりがいが見い出せず、ワンオペで家事育児をして、子どもに寂しい思いをさせて自分の心身の健康状態も揺らぐほどだったら、なんでこんな大変な思いをしてまで続けないといけないんだろうって思っちゃいますよね。
逆に、仕事にやりがいがあって、社会に貢献しているという実感や達成感があれば、たとえ両立が大変でもなんとかやりくりして仕事を続けようと踏ん張れると思うんです。私は娘が生まれてから、両親を山口から東京の自宅のマンションの隣に呼び寄せてずいぶん助けてもらいました。そこまでしなくても、続ける方法を何かしら見つけようとするんじゃないかなと。
だから私が今、大事だと思っているのは、一つは両立支援制度を男性も使えるようにすること。つまり男性に時短勤務や育休を取ってもらう。もう一つが、女性に仕事にやりがいを見つけてもらうこと。できれば出産前の20代のうちに、チャンスを掴む経験をして達成感を味わってほしい。仕事って面白い!社会に貢献できている!といった実感や達成感は仕事を続けるモチベーションになると思いますから。
多様性を重視する世界の潮流と進むリモートワーク。より柔軟な働き方へ
そのためにも根本的な労働環境、働き方を変えていかなければならないと思っているんですが、少しずつ変化の兆しが見えてきました。
その一つが、ダイバーシティが非常に重要であるという世界的な潮流があること。北欧やヨーロッパを中心に、先進国では、経済の停滞をブレイクスルーするためには、眠っている人材=子育て世代の女性にも働いてもらうしかないと考えられています。
管理職における女性比率をクオータ制という形で義務化することで、ジェンダーギャップが解消してきている。そして女性の社会活躍と同時に、男性の家事育児参加も進んでいるんですね。その改革・改善をやっていかなければならないと、日本においてもプレッシャーになっているとは思います。
もう一つが、コロナ禍における働き方の変化です。リモートワークはそれまで制度があってもほとんど使われてきませんでした。でもコロナ禍、リモートワークが推奨され、多くの企業で男性を含め誰しもが一度は経験し、リモートでも仕事ができるよねという感覚を身につけた。
リモートワークが推奨される環境下で、時短勤務からフルタイムに戻せた女性もいます。通勤時間がなくなって、時間調整がしやすく、夫もリモートで家で仕事をしているため家事育児を分担しやすい。時間や場所に縛られない働き方になったことで、意欲と実力が発揮しやすくなったんです。
リモートワークが70%定着した企業では、女性が管理職に手を挙げ始めていると聞いています。柔軟性のある働き方は、女性のみならず男性も、あらゆる属性の人にとって仕事とプライベートを両立させ、人生を豊かにする鍵になると思います。
私の話はここで一旦終わらせていただき、後半は(小林)味愛さんとお話させていただきます。
浜田敬子◎1989年、朝日新聞社に入社。前橋支局、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。記者として女性の生き方や働く職場の問題、また国際ニュースなどを中心に取材。米同時多発テロやイラク戦争などは現地にて取材をする。2004年からはAERA副編集長。その後、編集長代理を経て、AERA初の女性編集長に就任。編集長時代は、オンラインメディアとのコラボや、外部のプロデューサーによる「特別編集長号」など新機軸に次々挑戦した。2016年5月より朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーとして、「働く×子育てのこれからを考える」プロジェクト「WORKO!」や「働き方を考える」シンポジウムなどをプロデュースする。2017年3月末で朝日新聞社退社。2017年4月より世界17カ国に展開するオンライン経済メディアの日本版統括編集長に就任。2021年よりフリーとして活躍中。「羽鳥慎一モーニングショー」や「サンデーモーニング」などのコメンテーターや、ダイバーシティーや働き方改革についての講演なども行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)『男性中心企業の終焉』(10月20日発売予定、文春新書)。
※この記事は、2022年10月にリリースされた「柿の木便り」からの転載です。