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2022.11.14

隈研吾事務所からバーチャル建築へ 番匠カンナの未来予想図

バーチャル建築家「番匠カンナ」として活躍する


——現在CXOを務める「ambr」との出会いは?

遊びの延長のような感覚でバーチャルマーケットの空間設計などに携わっていたのですが、そんな中で2019年にambr から「VRSNSサービスの空間設計をしてほしい」と声をかけていただきました。


Virtual Market 3 "NEO SHIBUYA"

当時はひとつの空間をつくって終わりだったのですが、そのご縁をきっかけに、2021年9〜10月に行われた東京ゲームショウのVR化(TOKYO GAME SHOW VR)に誘っていただきました。クリエイティブディレクターとしてかかわることになり、空間設計だけでなく、UXや体験・コンセプト設計まで手を広げることになりました。

この経験を経て、同年11月には同社にCXOとしてジョインし、仮想空間におけるさらなるユーザー体験の創造をミッションに、経営にも携わることになりました。

「バーチャル建築家」と名乗っているものの、体験デザインまでやっているので、本来の建築家とは少し違う役割になってきていますね。バーチャル空間では、設計しだいで人の歩行速度をコントロールしたり、遠くにあるものを掴んだりする機能などを付加することもできるので、建築物の形を設計するだけでは不十分なのです。一言で表現するのは難しいですが、「エクスペリエンスディレクター」みたいな仕事になってきています。



また、並行して「idiomorph」の屋号のもと、個人活動もしています。2021年からコミットしている大日本印刷の地域共創型XRまちづくり「PARALLEL CITY構想」もそのひとつです。またリアルの建築に携わる可能性もありますが、今のところコロナで頓挫したものも含めて、実現はしていません。

告白をするためだけの部屋も?


——建築において、リアルとバーチャルはそれぞれどのような魅力がありますか。

リアルの建築には法的にも物理的にも制約があります。土地や周辺環境などをこちらの都合で変えられないし、施主からのオーダーもあります。建物を考えはじめる段階から、多くの制約が絡みあったパズルのような状態を解きながら、同時に建築家の考える未来社会のあるべき姿を込めていくのがリアルの魅力です。

そして何といっても、実体のある建築物ができていくという感覚は、バーチャルで味わうことはできません。



一方でバーチャル空間ではそういったリアルな建築にある制約が一切ないので自由な表現ができます。一人でもつくることができるし、ものすごく限定的な目的でつくることも可能です。

それゆえに、体験設計が必要になります。誰が何のためにその空間を訪れて、どのような体験を楽しむのかを定義しないと、できあがる空間がぼやけたものになってしまうからです。それを自分たちで決めることができるのは、リアルとは違った楽しさがあります。

例えば、「AさんがBさんに告白をするためだけの部屋」なんかもつくることができます。現実ではそのような部屋をつくることは、経済的な合理性からほぼないですが、そんな「現実に生まれるはずのない空間」を生み出すことができるのが魅力です。
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文=尾田健太郎 取材・編集=田中友梨 撮影=杉能信介

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