ビジネス

2022.11.01

​​大学発スタートアップ創業期にVCが必要な理由 起業家と投資家が議論


鮫島昌弘(以下、鮫島):私たちANRIはシードステージと呼ばれる創業間もないベンチャーを支援しています。普段から優れたシーズ(技術)を探していて、起業を目指す人たちとのマッチングをしています。

小野瀬さんに出会い、名古屋大学院創薬科学研究科の安井猛助教授を紹介させていただきました。私が安井助教授に注目したのは、アメリカで血液や尿から早期に病気を診断するベンチャーが立ち上がりつつあるのを見て、日本でも同じことが可能ではないかと思ったためです。

小野瀬さんも興味を持ってくれて、自分で論文を調べたり、医師に直接ヒアリングしたりするなど、すごい勢いで情報を吸収していきました。

鮫島昌弘
鮫島昌弘氏

小野瀬:でも最初、安井先生は私たちのアプローチに半信半疑だったようです。鮫島さんの猛烈なアタックのおかげで、最後は「会うしかない」と観念したと聞きました。

鮫島:本業の研究がある大学の先生方は、自ら起業するのは難しいですからね。実際、2000年代に経産省による「大学発ベンチャー1000社」をつくる計画がありましたが、経営する人材が見つからず、ほとんどが形だけの起業に終わったこともありました。

──大学のシーズから起業する場合、ベンチャーキャピタルが果たす役割はかなり大きいのではないでしょうか。

小野瀬:そうですね。経営メンバーを紹介してもらったこともあります。Craifを始めた頃、私が経営者として未熟だったこともあり、メンバー全員が退職してしまうという事態もありました。

その時は本当にショックでしたが、ANRIの誰も私を責めることなく、いまのCTOである市川裕樹を紹介してくれたのです。市川に惚れ込んだ私は、彼を説得して何とか参画してもらいました。

チームビルディングやメンタル面でも支援


──志倉さんは、どうして片寄さんの東京理科大学イノベーション・キャピタル(TUSIC)を出資先に選んだのでしょうか。

志倉喜幸(以下、志倉):ハイレゾでは、ビッグデータを高速に処理することができる計算インフラを提供しています。私どものデータセンターを、大学の研究にも活かしてほしいとTUSICにお願いしました。

ハイレゾはもともと私が学生時代に友人と起業した経緯もあり、大きくするつもりはあまりありませんでした。しかし、事業に手応えを感じてきたためピボット(方向転換)しようと、TUSICの門を叩くことにしたのです。

片寄裕市(以下、片寄):TUSICは、東京理科大学が認定する大学のVCです。だからといって学内にしか投資しないわけではなく、他大学にも投資もするほか、起業家教育やインキュベーションなどの支援もしています。

志倉さんと出会った当初は、いろいろと突っ込んだ質問をしました。TUSICは投資するうえで全会一致が必要だからです。でも志倉さんは、的を得た回答をすぐに返してくれ、しかも粘り強かったので「これは有望だな」と思いました。

片寄裕市
片寄裕市氏
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文=吉見朋子 撮影=曽川拓哉

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