レイ:今でも覚えているのは、中学生のときに父親から渡された、『精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』という、ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進さんの書籍です。当時は内容をほとんど理解できませんでしたが、脳科学は未知の世界であるものの、結局は物理的なシグナルの行き来にすぎず、感情なども後に説明できるようになると書かれていたことが印象に残っています。
利根川さんの本を読んでから、「嬉しい」「すごい」「悲しい」という感情をロジックで作り上げたいと思うようになり、サイエンスとアート、テクノロジーとデザインの融合というテーマもそのときに生まれたと気がします。その後、大学で取り組みはじめ、今でも変わっていませんね。
どこまで意識していたのかはわかりませんし、親の教育も関係していると思いますが、偶然の出会いも含め、様々な出来事が繋がっているはずです。僕自身、10代半ばから20代半ばまでは考えてもいませんでしたが、今この歳になって振り返るとそれを実感しますね。
中道:「とりあえずやってみよう」と、一歩を踏み出す大事さを考えさせられます。実際どうなるかわからないし、失敗するかもしれない。しかし、すべては一歩踏み出さなかったらわからなかったことだと。
レイ:そうすることで、失敗にも共通点があることもわかってきました。僕は基本的に、おぼろげながら描いているやりたいことや好奇心に動かされてきましたが、お金を目的で動いた場合は後悔しがちですね。
中道:わかる気がします。
レイ:もちろん、お金は生活する上で必要不可欠なものです。ところが、「こっちの方が支払いがいい」「このクライアントからお金を出してもらう必要がある」といった考えでプロジェクトを始めると、後々その代償を支払ったり、しっぺ返しを受けることが多かったりします。40歳を超えたあたりから、「お金を基準に物事を決めない」と強く考えるようになりました。
中道:共感しますが、難しいところですよね。