「人が自然に手を加える」気候工学が世界的な干ばつ対策には必要か

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3. 長期的な解決策:北極圏の川の流れを変えて淡水を確保する


70年代後半から80年代前半にかけて、筆者はオーストリア・ウィーン郊外のラクセンブルクにあるハプスブルク家の夏の離宮を利用したシンクタンク、国際応用システム分析研究所(IIASA)に勤務していた。西側諸国の科学者が東側の科学者と共同研究をする場だ。

その頃のスパイ話もしたいところだが脱線せずに続けると、シベリアのオブ川の流れを逆にして北極海ではなく内陸のアラル海(現在のカザフスタン、ウズベキスタン)に注ぎ込むようにするとどうなるかというシミュレーションをロシアの科学者は行っていた。このエンジニアリングのプロジェクト案にはウラル山脈を横断する全長1584マイル(約2550キロメートル)の運河建設が含まれていて、総工費は1980年当時で400億ドル(約5兆8100億円)と見積もられていた。

今にして思えば、旧ソ連がこの計画を実行しなかったのは残念だ。アラル海は干上がり、北極海には淡水が流れ込んで温暖化、ひいては気候変動が加速している。

15年前にカナダ・バンクーバーで開催された水に関する会議で、筆者は同じようなアイデアを提案した。北米でミシシッピ川に次ぐ流域面積を誇るマッケンジー川では、過去60年の間に淡水の流出量が著しく増加した。研究者たちは、マッケンジー川から北極海へ流れ出る温水が氷の融解を加速させていることを発見した。筆者はマッケンジー川の流れを逆流させ、余剰水を北米の干ばつ地帯に流すことで、干ばつの悪影響を抑えてはどうかと話した。すると会議参加者から叱られた。よくもまあ果敢にも環境をいじる提案をしたものだ。

干ばつがこれほど進行して危険なものであることから、ソ連の古い考えを復活させるべきかもしれない。融解や温暖化を引き起こしているところではなく、必要なところに届くようにパイプで水を送るべきだろう。

とてつもなく複雑


水と干ばつは気候変動と非常に複雑な関係にある。干ばつに対する最も有望な解決策でさえ穴だらけで未知数だ。

しかし、水不足には本気で取り組まなければならない。もはや水を無料のリソースとして扱うことはできず、水路やパイプラインの建設はこれ以上待てない。

古代ローマの水道橋から新疆ウイグル自治区の地下井戸や運河まで、古代文明では大規模な土木工事によって淡水が運ばれ、これらは現在も使われていることを忘れてはならない。手を入れすぎだとか不自然だといって3000年前の技術を本当にないものにしてしまうのだろうか。

要は、ジオエンジニアリング(気候工学)を検討の対象外とすべきできないということだ。産業革命以来、150年かけて気候に影響をおよぼしてきたことに何らかのかたちで対処しなければならない。責任を持って対処すれば、この「もしも」の話は悲劇で終わらないかもしれない。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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