「人が自然に手を加える」気候工学が世界的な干ばつ対策には必要か

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今夏の広範囲におよぶ干ばつでは、気候変動が「気候変動との戦い」をこれまで以上に難しくしていることが明らかになった。このことを少し考えてみてほしい。まるで「もしも」の話を地でいくかのようだ。

まず中国について考えてみよう。70日間にわたる熱波で長江の一部は1865年以来最も低い水位にまで落ち込んだ。四川省の電力の80%を生み出す水力発電の稼働率はわずか20%にとどまった。トヨタ、Foxconn(フォクスコン)、Tesla(テスラ)などのメーカーは生産の一時停止を余儀なくされた。電力供給制限は電気自動車(EV)用電池に必要なリチウムの生産減につながり、EV100万台と公共充電設備40万カ所が電気を求めて奔走することになった。

欧州も中国同様に過去500年で最悪の干ばつに見舞われた。8月には、フランスでロワール川の水位低下と高温により原子炉の冷却ができなくなり、同国の原子炉の約半分が停止した。通常、二酸化炭素を排出しない原子力発電による電力の輸出国であるフランスは電力を輸入しなければならなかった。ライン川とドナウ川も水位が低下し、二酸化炭素の排出が少ないはしけを使った交通が遮断され、物資は二酸化炭素排出量がはるかに多いトラックで輸送することになった。

1200年ぶりの干ばつに見舞われた米国西部はコロラド川を過剰に利用している。コロラド川から引いている水の約80%は米国の農作物生産量の15%を占める農地に使われている。コロラド川沿いにあるミード湖とパウエル湖の2大貯水池はそれぞれ貯水量が4分の1にまで落ち込んだ。特にミード湖は水が流れなくなる「デッドプール」になる可能性がある。コロラド川に依存する7つの州は水使用量を最大30%削減しなければならず、さもなければ連邦政府が介入することになる。

一方、ウクライナでの戦争で悪化した干ばつで世界の穀物在庫は12年ぶりの低水準に落ち込んでいる。中国、インド、欧州、米国の農家は高温と乾燥に悩まされている。

気温が平均1.2℃暑いならともかく、2、3℃となると想像するだけで恐ろしい。干ばつは改善するどころか悪化する傾向にあり、水不足と気候変動に同時に対処するにはどうしたらよいのだろうか。短期的、中期的、長期的な解決策が必要だ。これらのうちいくつかは安全なもので、中にはあなたが嫌がるものもあるかもしれない。

1. 短期的な解決策:水に適切な価格をつける


短期的には、各国は飲料水と農業用水の供給を確保する必要がある。その第一歩は水に適切な価格をつけることだ。これは「言うは易く行うは難し」だ。

米紙ニューヨークタイムズは8年前、米国の農家にとって「水のコストは事実上ゼロ」「米国のほとんどの都市や町で水があまりにも安い」と嘆いた。しかし2010〜2018年に米国の12都市の上下水道価格は平均80%上昇した。

カリフォルニア州の1エーカーフィート(約4050平方メートル)の水のスポット価格は、2019年9月30日の214.64ドル(約3万1000円)から2022年9月6日には1242.79ドル(約18万円)へと3年間で579%も上昇した。カリフォルニア州の議員たちは米司法省に「干ばつにかこつけた不当利益行為」と「市場操作」を調査するよう求めている。

しかし、これが適正な市場価格だとしたらどうだろう?
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翻訳=溝口慈子

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