ビジネス

2022.10.15 11:30

京都・飯尾醸造の「お酢」がミシュランシェフたちに選ばれる理由

松崎 美和子

──以前、「まずは本質的な価値を理解してくれるお鮨屋に使ってほしい」と飯尾さんが仰っていたのを思い出します。実際に多くのお店で使ってもらえるようになるために、どんなことをされたんですか?

すし㐂邑さんで使っていただくようになってからは「使ってみたい」という連絡に応じることが多かったです。

お鮨屋さんというのは、1回で炊くご飯の量が8合~1升と非常に多いため、試作にかかるコストやロスがかなり大きいです。そこで飯尾醸造では、小さいスケールで何度も試作していただけるような仕組みをつくりました。

そして、お鮨屋さんごとに僕がおすすめする富士酢プレミアムの配合レシピのほか、1合炊きの炊飯器と0.01グラム単位で計量できるはかりを無料で貸し出すことにしたのです。

そこまでケアできるお酢屋というのが今までになかったので、現在に至るまでご愛顧いただいたのかなと思っています。

そのほかにも、お酢の活用の仕方をみんなで共有し学びを深めるために「世界シャリサミット」という世界中から鮨職人さんが集まる場を主宰しています。


世界シャリサミットの様子

──お酢を開発しただけでなく、それらを伝えていく努力をしてきたのですね。経営されていくなかで、特に苦労していることはありますか?

お酢の需要と供給のバランスが取れなくなってきたことでしょうか。

限られたお鮨屋さんだけに販売する「赤酢プレミアム」という商品がありますが、こちらは1本つくるのに16年かかります。そのため世界120軒のお鮨屋さんに納品するだけでいっぱいになってしまいました。

地元の無農薬米農家さんの数が減ってきていることもあり、どうしても使いたいと言ってくださるお店にも年単位で待っていただいているのです。

これ以上の規模の拡大は正直難しい状態なので、拡張はせず、付加価値の高いものをつくっていく方向でやろうと思っています。

とはいえ、僕は需要と供給のバランスが取れないくらいがちょうどいいと思っています。蔵人たちや販売スタッフにいつも言っているのは「飯尾醸造はお酢界のエルメスなんだよ」と。「エルメ酢」というわけです(笑)。

なぜエルメスかというと、エルメスはアウトソーシングを極力せず、職人たちのハンドメイドで上質なレザー製品をつくってきた伝統を持つハイブランドだからです。そして文化をつくったり、守り続けています。その点こそが、飯尾醸造がエルメスになぞらえる理由ですね。
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文=齋藤潤一

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