宇宙とは切り離せない私たちの暮らし
小野田さん:一番印象に残っているのは、2002年に南アフリカ・ヨハネスブルクで開催された、「持続可能な開発に関する世界サミット」に参加したことです。今では衛星の観測データが環境問題への取り組みに役立てられていることをご存じの方も多いとは思いますが、2002年当時は全く知られていませんでした。
それどころか、衛星の開発には費用がかかりますし、地球環境の敵だと思われてしまうような地位でして……。誤解をなくすために、衛星データが「こんなことに使えるんだ」ということをアピールしなければなりませんでした。
せいか:たったの20年前なのに、今とはそんなに状況が違ったのですね。
小野田さん:それで持続可能な開発に関する世界サミットに行って、サイドイベントを開催したり、サミットの成果文書として取りまとめる共同宣言に、衛星データの利用を入れてもらえるように交渉をしたりもしました。
結果的に、サミットで発表された「持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画」には、衛星データもしくは宇宙という言葉が十数箇所も取り入れられました!これは画期的なことでした。今も地球観測プログラムに予算がついて、存続しているのは、このサミットの効果が20年経っても続いているからだと思います。
アメリカでも欧州でも、日本でも、地球観測プログラムが続いて、民間企業が参入してきています。全く世間に認められなかったところから、一気に花が開くところに行き着くことが、頑張ればできるのだとわかりました。国際関係のバックグラウンドと私の人工衛星愛が相まった楽しい仕事でしたね。今の仕事も全てこの経験の延長線上でやっているような気がしています。
せりか:素敵なエピソードですね。宇宙開発も宇宙探査も遠い出来事だと思われてしまいがちですが、私たちの暮らしを支える技術を生み出していますね。
小野田さん:そうですね。私たちの生活は、宇宙とはもう切っても切り離せないものになっています。スマートフォンのアプリ一つをとっても、人工衛星からの情報がなかったら成り立たないものが多くあります。天気予報だって、衛星の情報がなかったら、今の精度は達成できませんし。地球低軌道よりもさらに遠くへということで、月や火星を目指していますが、そこで生まれる技術は常に地上での暮らしの役に立っています。
一方で、地球上で環境問題が起こっているように、宇宙でもスペースデブリ問題や軍事利用が問題になってきています。宇宙も含めて、環境を大切にしていきたいですね。
せりか:宇宙開発が暮らしにどう貢献するのかを、私も引き続き発信していきたいと思います。小野田さん、ありがとうございました!
宇宙飛行士との対談企画第11弾は、JAXAのワシントン駐在員事務所所長 小野田勝美さんにご登場いただき、打ち上げが迫るアルテミスⅠの注目ポイントや宇宙開発と日々の暮らしのかかわりなど、様々なお話をうかがうことができました。
次回のゲストはOrbital Insight社の創業者で会長兼CTOであるジェームズ・クロフォード博士です。クロフォード博士から、地球観測×AIによる社会貢献についてうかがいます。お楽しみに。