小野田所長に聞く、アルテミス計画の見所
せりか:ワシントン駐在員事務所では、アルテミス計画にかかわる業務も担当されているのでしょうか。
小野田さん:そうですね。アルテミス計画の一環で開発されている月周回有人拠点「ゲートウェイ」では、日本は最初に打ち上がる有人モジュール(通称HALO)にバッテリーを提供することになっています。
アルテミス計画への取っ掛かりを早いタイミングで作りたくて、1番目に打ち上げられるHALOに日本として何か貢献できるように調整しました。
日本政府とNASAのゲートウェイの協力のための了解覚書きが締結されたのは2020年12月31日でした。トランプ前大統領が退任したのは、2021年1月20日。この日付から見てもわかるように、政権が変わる前に滑り込みで覚書きを署名したのです。今はゲートウェイ構築に向けた具体的な調整を続けています。
宇宙開発や探査のプログラムは、多くの方々がいろんなレベルで関わりながら進められています。こちらからこんなことを言うのは僭越ですが、ワシントンに来てからは、日本の内閣府・宇宙戦略事務局や文部科学省、外務省と二人三脚のような気分で業務をしています。皆さんと手に手を取って、日本人宇宙飛行士が月に降り立つために努力しているという感覚がワシントンに来てから強くなりました。
せりか:小野田さんをはじめ、大勢の皆さんの協力によって、日本のアルテミス計画への参画が推進されているのですね。小野田さんが考えるアルテミス計画の見所を教えてください!
小野田さん:注目のポイントはたくさんありますよ。近々の注目は、月周回軌道にオリオン宇宙船を送るミッション・アルテミスⅠに日本の探査機「OMOTENASHI」と「EQUULEUS」が相乗りして打ち上げられることです。このふたつが先鞭をつけて月に向かってくれる、日本のアルテミス計画の最初のミッションで、私も期待をして見ています。
人工衛星に感情はないかもしれませんが、勇気があるなあ!と思います。初めて打ち上がるSLSロケットに乗ってくれる6U(10×10×60cmサイズ)の衛星等を応援したいです!
アルテミスⅠの打ち上げの後は、オリオン宇宙船に初めて宇宙飛行士が乗って月面に向かうアルテミスⅡ、NASAの宇宙飛行士が月面に着陸するアルテミスⅢが続きます。そして、岸田首相は2021年12月に「2020年代後半には、日本人宇宙飛行士の月面着陸の実現を図ってまいります」と表明しましたね。新しく選ばれる宇宙飛行士は月を目指して訓練していくことになるでしょう。月面に日本人宇宙飛行士が降り立つ日が今後の注目のポイントになると思っています。
せりか:日本では、月面を走るローバの開発も始まっていますよね!
小野田さん:「有人与圧ローバ」のことですね。宇宙業界で働く私たちは、この「与圧」という言葉を当たり前のように使っていますが、ほかの方々からすると馴染みのない言葉かもしれません。これは気圧が調整されているという意味です。
空気がない宇宙で人間は宇宙服なしでは生きていけません。アポロ計画では、宇宙飛行士たちは宇宙服を着てローバに乗っていましたね。でも、この有人与圧ローバではTシャツのままで乗れるのです。アポロ時代とは全く違う生活環境を与えてくれるものだと思います。