性差をなくすのではなく活かし、「当たり前」を変えていく
とはいえ、女性と男性には性差がありますよね。その性差によって女性が経済や政治に参加できないのは大きな損失なんです。よく企業のトップに「女性が管理職になったことで、どれくらい株価が上がりますか?」と聞かれますけど、グローバルではジェンダーが多様な組織のほうが、持続的な経営にも経済価値にもいい影響をもたらす、というのがエビデンスも含めスタンダードです。
性差は「なくすもの」ではなく「活かすもの」。近年は、これまで見逃されていた女性の課題を解決する「フェムテック」(FemaleとTechnologyを合わせた造語。女性が抱える身体の悩みを解決する製品やサービスのジャンル)が盛り上がりを見せていて、希望を感じています。
女性の身体に着目し、女性の起業家や研究者が立ち上がっているケースが多いので、いろんなビジネスチャンスが生まれると同時に、社会で活躍する女性も増えていく。いい循環ですよね。
ただ、シリコンバレーでインキュベーターをやっている知人と話していたら、フェムテック分野における女性の起業は増えているけど、まだ女性の投資家は少ないと。男性だとピンとこない人も多いので、活動を後押しする投資家にも女性が増えてほしいですね。
──あらゆる分野に女性が進出することで変わってくる世界がありそうですね。私たち働く女性、男性もそうだと思うのですが、個人の働き方の選択が、国や企業の制度やジェンダーギャップに紐づいていることがよくわかりました。社会の構造の中にいる、一個人としてできることはあるのでしょうか?
ありますよ。すぐには社会の構造は変わらないけれど、これまでも少しずつ変わってきたわけです。特権を持っている人は気づかないけれど、違和感があって、子どもの世代によりよい社会にしたいのであれば、流れに抗っていかないといけない。何もしなければ変わらないままですから。
わかってくれない人とぶつかって傷つく必要はないけれど、共感できるプロダクトを見つけたら買ってみるとか、社会的な活動する人に寄付をするとか、SNSで言及するとか拡散するとか、そういう小さなことも、社会の流れを変えていく一つの行動です。身近でジェンダーギャップに苦しんでいる友人がいたら、「みんな我慢しているからしかたない」ではなく「それはおかしいよ」って寄り添うのもいいと思いますし。
これまで「当たり前」とされてきたことに疑問を抱いた人が「おかしくない?」と声を上げ、賛同する人たちが増えていくことで、社会は動いてきました。自分たちが置かれている状況を認識しながら、違和感を抱いたら、可能な限りで声を上げていく。そうやって個人から、社会のいまの「当たり前」を変えていくことはできるはずなんです。
白河桃子◎相模女子大学大学院特任教授、昭和女子大学客員教授、少子化ジャーナリスト
東京生まれ、慶応義塾大学。2020年に中央大学ビジネススクールMBA修得。少子化、働き方改革、ジェンダー、アンコンシャスバイアス、女性活躍、ダイバーシティなどがテーマ。山田昌弘中央大学教授との共著「婚活時代」で婚活ブームを起こす。内閣府「男女共同参画重点方針調査会」内閣官房「第二次地方創生戦略策定」総務省「テレワーク普及展開方策検討会」内閣官房「働き方改革実現会議」など委員を歴任。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋』『ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち』『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』『女子と就活』『産むと働くの教科書』など多数。
※この記事は、2022年2月にリリースされた「柿の木便り」からの転載です。