労働時間の見直しと「男性の家庭進出」が鍵になる
──女性活躍は女性だけの問題じゃない、ということですよね。具体的にはどんな制度設計や変化が必要だと思われますか?
一番大事なのは、労働時間の見直しと環境整備です。働き方改革である程度は進んでいると思いますが、残業に上限を設けて長時間労働を是正し、男女ともに働きやすい環境を整え、時間あたりの生産性を上げていくこと。テレワークなど時間と場所に縛られない働き方や理由を問わない休職や再就職制度も必要です。コロナ禍でテレワークが増えて働きやすくなった側面もありますよね。
それから働き方を柔軟にする上では、年功序列を廃止して、積み上げてきた年次や時間で評価するのではなく、柔軟に昇進や活躍のチャンスを与えることも求められるでしょう。
環境の中には、家庭も含まれていて、男性が家庭にいる時間を増やして家事育児に関与する。それができなければ外注するとか、家庭における女性の負担を減らさないと。
よく「女性特有のライフイベント」と言うけど、そもそも妊娠出産は女性にしかできないけど、子育ては男性にもできますからね。京都大学大学院教育学研究科の明和政子教授は、親として子育てに適した脳に発達するのに、生物的な男女の差はないことを発見しました。
性差ではなく関わる時間と経験値によって脳が発達する、と。つまり、女性が必ずしも子育てに向いているわけではなく、男性も子育てに関わる時間が増えれば、同じように脳が発達していくのです。
2022年からの育休法改正で男性育休(生後8週間のうちの4週間まで)が制定されたのは、非常に有益だと考えています。男性の家庭進出が産後うつによる自殺を防ぐ効果があることが一押しになったようですが、育休取得は、男性にとってもワークライフバランスを考えるいい機会になる。
男性の中にも、ずーっと上り詰めないで、立ち止まったり降りたりする人がでてきていいと思うんです。男性のそうした選択は、女性が仕事に関わる時間も増え、ジェンダーギャップの解消にもつながるはずです。
「アンコンシャスバイアス」に気づく
同時に、個人としても、家庭と仕事が分離していて、どちらも滅私奉公のように時間を割いてやらないといけないとか、みんなも我慢しているから仕方ないといった思い込みは捨てていかないといけない。
組織の中にも、個人の中にも、無意識の偏見や思い込み「アンコンシャスバイアス」は必ずありますから。上司の「女性が管理職になってくれない。子育てをしたがっている」というのは最たるアンコンシャスバイアスですよね。そうさせている、社会や組織の構造の問題にまったく目が向いていない。
逆に管理職を打診された女性が「自信がないからできない」と思うこともあるでしょう。でも、それはおそらく周囲にいる男性の管理職と比べているから。でも男性管理職と同じようにやる必要はないんです。男性と同じだったら、男性でいい。女性のあなたが昇進すること自体が、組織に多様性をもたらすことになる。そのことに組織も女性自身も気づかないまま、表面的な女性活躍を進めているパターンも多いと思いますね。
──女性が出産や子育てを機に仕事を降りることを「選んでいる」のではなく、両立の難しさから「選ばされている」ということを改めて認識させられます。