女性が“イレギュラー”あるいは“無理を強いられる”制度設計の限界
──職を失ったり、子育ての負担が増えて仕事がままならなくなったり、どうしても目の前に課題があると個人の問題として捉えてしまうことがありますが、働く女性が「ガラスの天井」あるいは「張り付く床」にぶち当たってしまうのは、ジェンダーギャップが開いている社会の構造の問題、ということですね。
その通りです。女性個人の尊厳や選択の自由が重視されていない結果がこうして社会に現れているんです。政府による再分配もうまくいっていない。一括で10万円を支給する焼け石に水ではなく、根本的に再分配を見直さないといけないと思います。こうした政策決定をする場に女性がほとんどおらず、高齢の男性ばかりに決定権があること、つまり政治におけるジェンダーギャップの影響がここにも出ているわけです。
──ガラスの天井に関して、女性活躍推進の取り組みが国や企業などでもなされていますが、過去からの流れも含め、その動きをどう見ていますか?
過去30年を振り返って、女性活躍の原点は、1985年に制定された男女雇用機会均等法です。でもこれは、“24時間働けるいつでも転勤可能な”男性の働き方に合わせる女性だけが“均等”に扱われた。出産育児をしながらの長時間労働や転勤は難しく、会社を辞めてしまう女性たちが多かったわけです。
そこから1995年に育児介護休業法ができて、2010年に短時間勤務制度ができて、ようやく育児や介護を担う女性たちが正社員として企業で働きやすくなりました。ただそれは、“イレギュラー”な存在として、脇道をつくっただけ。どうしても王道からは外れてしまい、管理職になることは難しい。産むことと働くことはできても、活躍まではできなかったんですね。
そこへ2016年に女性活躍推進法ができて、いきなり脇道から王道へ行けと言うわけです。残業が当たり前の制限速度のない高速道路のような道に流入しろと言われても、家庭で家事育児を担う女性には難しい。昇進しても女性が無理を強いられるだけです。
私がここ最近思っているのは、女性だけにスポットを当てた制度設計によって、女性が変わるのではなく、男性を含めた組織全体が変わらないといけない、ということです。そもそも管理職やプロフェッショナルのあり方が、妊娠出産で8週間休まない、日々の子育てに関与しない男性が基準になっているのが問題です。働くメンバーの構成が変わっているんだから、ルールも変えていかないと。