孤独死を扱った涙腺刺激のヒューマンコメディ「アイ・アム まきもと」

「アイ・アム まきもと」(C)2022 映画『アイ・アム まきもと』製作委員会


撮影はほとんどが、奇しくも「おくりびと」と同じ山形県の庄内地方で行われたというが、作品のなかでは、主人公の目に映る風景として効果的に描かれている。水田監督が語る。

「作品を撮るにあたって、もう一度、元の『おみおくりの作法』を観直したのです。ロンドンのど真ん中でロケしているはずなのに、まるで都会感がない。つまり主人公が生きているテリトリーしか撮っていないのです。東京を舞台にしてもそうなる。でも東京だと映り込むものが多すぎる。それで庄内で撮ったのです。

庄内には、日本人のDNAにある原風景、田園、山、川、海があって、それは日本中のたくさんの人が見ている既視感にも近い。そこに主人公の生活エリアを設定しました。孤独死についての物語ですが、東京だったり大阪だったり都会で撮る必要はないと痛感しました」

原作を日本に移し替えるにあたっては、脚本家選びにも細心の選択が働いた結果、水田監督が推薦した舞台で活躍する倉持裕氏が担当、この作品が映画脚本としては3本目にあたるが、濃淡の優れた見事な脚本が仕上がり、それを読み豪華なキャストが集まった。


今江みはる役の宮沢りえ。「アイ・アム まきもと」は9月30日(金・祝)よりTOHOシネマズ 渋谷、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国順次ロードショー(C)2022 映画『アイ・アム まきもと』製作委員会

孤独死を遂げた蕪木のかつての恋人に宮沢りえ、蕪木とは生き別れになった娘に満島ひかり、そのほか國村隼、松尾スズキ、でんでん、松下洸平などが味のある演技で、主演の阿部サダヲの脇をしっかりと固めている。中沢プロデューサーが作品の見どころについて次のように語る。

「水田監督にお願いして素晴らしい作品ができあがりました。もう何度も観ているのですが、黒澤明監督の『生きる』(1953年)を彷彿とさせるし、小津安二郎監督のタッチにも見えている。映画を早回しで観るZ世代の人たちにも、是非じっくり観て欲しいですね。とにかくあったかい涙が出そうになる作品です」

中沢プロデューサーの語る「あったかい涙」、確かにこの作品にはラストシーン近くに不思議な心を震わす感動が用意されている。それは、劇場で確かめてみてはいかがだろうか。


映画では初めてタッグを組んだ水田監督と中沢プロデューサー(撮影=太田真三)


連載:シネマ未来鏡
過去記事はこちら>>

文=稲垣伸寿

ForbesBrandVoice

人気記事