前出のように「アイ・アム まきもと」は「おみおくりの作法」というイギリス・イタリアの合作映画をベースにしている。日本での映画化に動いた中沢敏明プロデューサーもメガホンをとった水田伸生監督も、偶然に同じ劇場でこの作品を観て心を動かされていたという。
「映画というのは、僕の持論ではラストシーンが良ければ素晴らしい作品だと考えています。『おみおくりの作法』には感動するラストシーンが二度あった。それで観終わった途端、すぐに日本を舞台にした映画にしてみたいと思い、原作権を交渉しました」
中沢敏明プロデューサー(撮影=太田真三)
こう語る中沢プロデューサーは、2008年に「納棺夫」に題材を得た「おくりびと」を世に送り出している。作品は第81回アカデミー賞で外国語映画賞にも輝いた傑作だが、「最初から『おくりびと』のことは意識していなかった」という中沢プロデューサーが続ける。
「水田監督と仕事をするのは今回が初めてですが、10年くらい前から一緒に映画をやろうと話していました。僕は直感でものごとを捉えるタイプの人間なのですが、水田監督は理論的な思考を持つ左脳の人で、バランスはいい。それにテレビドラマで名作をたくさんつくっている。この作品を企画したとき真っ先に監督をお願いしに行きました」
水田伸生監督は1981年に日本テレビに入社、これまで数多くのドラマの演出を手がけている。映画監督としても阿部サダヲと組み「舞妓Haaaan!!!」(2007年)や「謝罪の王様」(2013年)などの話題作を送り出している。水田監督が語る。
「企画をいただいたのは3年前です。実は社外の企画を手がけるのは初めてに近かったんです。それまではたいがい自分が企画者だったのですが、中沢さんから企画をいただいたとき、元の作品も観ていましたので、これならできそうだなと思い、監督することに決めました」
水田伸生監督(撮影=太田真三)
「おくりびと」と同じ地方で撮影
「アイ・アム まきもと」は、表面的には笑いの衣装を纏っているが、その奥には、いまの社会が直面する「孤独死」というテーマが深く横たわっている。中沢プロデューサーが「左脳の人」と断言する水田監督が次のように語る。
「他人に対してギスギスし始めたのは、幸せの尺度を経済で語るようになってからだと思うのです。世の中がそうさせているのかもしれませんが、皆とても利己的になっている。今回、『孤独死』という題材と向き合うときに思ったのは、やはり人は孤独じゃないということを提示しなければいけないということでした。そういう落とし込み方をすべきだなと考えて取り組みました」
作品のなかで象徴的なシーンがある。それは同じ墓石が規則的に並べられた霊園で、牧本が墓地のスペースに寝転び、空を見上げるシーンだ。牧本の顔には瞬時、安堵の表情が浮かぶのだが、物語はそれでは終わらない。さらに心を震わすラストに向かって展開していく。
(C)2022 映画『アイ・アム まきもと』製作委員会