インドで偶然ビートルズに遭遇 1968年の出来事を追体験するドキュメンタリー

「ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド」(C) B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

旅には出会いがある。時には思いもしなかった人たちに出会うこともある。

この映画の主人公も、恋人から別れの手紙を受け取ったインドで、意外な人物たちと出会う。ザ・ビートルズだ。しかし、彼はその貴重な想い出を、32年間、自宅の倉庫に仕舞い込んでいた。

「ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド」は、直接ビートルズを描いた作品ではない。彼らを題材にしたドキュメンタリーではあるが、主役となるのはカナダの映像作家(エミー賞を受賞している)ポール・サルツマンという人物だ。

1968年、サルツマンはかねてから心惹かれていたインドへと渡る。23歳で自分のテレビ番組を持ち、サクセスストーリーを謳歌していた彼だったが、突如、内なる声に導かれ、映画の録音スタッフとして「神秘の地」の土を踏む。

しかし彼を待っていたのは、故郷に残してきた恋人からの別離宣告だった。打ちのめされた彼は、傷ついた心を癒すため、ニューデリーからガンジス川を250キロほどさかのぼったマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのアシュラム(僧院)へとたどり着く。


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マハリシは超越瞑想の創始者であり、1日2回20分間、目を閉じて瞑想することで意識の深みに達し、精神の安定と集中を得られると唱えていた。自らの心の再生を望み、マハリシのアシュラムの前に立ったサルツマンだったが、その願いがすぐに叶えられることはなかった。

そのときアシュラムには、世界で最も有名なスーパースター、ビートルズのメンバーが超越瞑想を学ぶために滞在していたからだ。

インドで偶然ビートルズに出会う


ビートルズは、日本公演の2カ月後の1966年8月29日を最後に、コンサート活動を終了していた。

翌年、音楽史に残る名盤「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を発表したが、デビュー前から彼らを支えてきたマネージャーのブライアン・エプスタインの急逝で、精神的な支柱を失いかけていた。

そんな状況下で出会ったのが超越瞑想運動の創始者であるマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーだった。マハリシからインドのリシケシュにあるアシュラムへと招待されたビートルズは、パートナーも伴ってメンバー全員でこの地を訪れることになった。


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1968年2月、ビートルズのメンバーはマハリシの施設で超越瞑想のセッションを始めるが、そこに偶然遭遇したのが、前出のサルツマンだった。当初、彼はビートルズが来ているとは知らずにアシュラムの門を叩いたが、入ることを許されず、敷地外にテントを張って許可が出るのを待っていた。
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文=稲垣伸寿

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