ビジネス

2022.10.04

強みが裏目に? 日本人営業スタイルの生産性

倉本由香利(左)と麻野耕司(右)


倉本:リポートでは日本企業の「7つの根本課題」を指摘させていただきました。そのうちの1つが、グローバル企業と比較して、営業プロセスそのものがあまりデジタル化されていないという課題です。

よく営業のデジタル化というと、デジタルマーケティングのような前線のデジタル化が取り上げられますが、本当の意味で営業生産性を改善するのに重要なのは、例えば在庫管理の見える化や、需要予測の自動化のような中間領域のデジタル化なんです。

需要予測は、いまでも営業所や販社の営業が経験的につくったデータを積み上げて行っている企業が少なくありません。何百、何千もの営業の方の時間を多く割いてつくる需要予測は、営業の方の貴重な時間を相当使っているといえます。しかし、私が過去に行った営業改革のサポートでも、さまざまなデータから需要予測を自動化することで、予測精度が上がったケースは多くあります。

麻野:ミドルオフィス、バックオフィスの部分に先んじて投資できるかどうかは、これから生産性を上げていけるかのひとつの分かれ道になりそうですね。

倉本:デジタルマーケティングの取り組みについても、to Cと比べてto Bの企業は遅かったのですが、いまグローバルにはto Bでも代理店などを介さず、直接カスタマーに売る「ダイレクト・トゥ・カスタマー」の動きがとても増えています。製造業においても、欧米の自動車業界はいち早くオンラインで自動車の販売を開始しましたし、半導体や産業機械の分野でもオンラインで直接顧客に販売するモデルが出てきているのです。

デジタル化においては、顧客との人間関係以外にも顧客接点を増やす「オムニチャネル」も必要です。営業担当者だけではなく、それ以外に複数のデジタルの接点も全部連携したかたちで、お客様がいつでも手繰り寄せられる仕組みが理想でしょう。

麻野:そもそも、営業生産性の頭打ちのポイントは、営業担当が顧客と接点をもっている時間しか、購買担当の購買意欲を上げることができないことにもあります。デジタルを使うとそれを超えることができるから、かなりのブレイクスルーが起きると思います。

経営者の「腹決め」が肝心


倉本:さらに根深いのが、日本企業に根強い「顧客至上主義」から来る非効率性です。過去の日本で、お客様のために尽くすさまざまなサービスによって売り上げが増えることがあったのも確かです。

しかし、この20年ほどのグローバル化の流れにおいて、大企業では「グローバル購買」のような部門が一括して入札や査定をするのが当たり前になりました。製造などに必要な決定的なニーズ以外に、営業担当者が「顧客至上主義」で顧客のニーズに細かく応えようと頑張って時間を投資しても、それが直接の購買に結びつかない。営業の時間投資(I)がROIのリターン(R)に結びつかなくなっているのです。

既存の顧客を大事にする企業が多いと思いますが、当然ながら新興国は力を増しており、この十数年で新しい産業、例えば新エネルギーや電気自動車などが台頭してきています。収益の出ない既存領域から手を引き、このような新規の領域に大きく人を振り分ける決断をする必要があるでしょう。

コンサルティングを長く続けていて思うのは、日本の営業担当の一人ひとりの方々はグローバル企業と比較して優秀な方も多いのに、経営側がリソースをかけるところを間違えているのです。営業体制として属人的に一人ひとりがお客様に尽くすやり方ではなく、組織として正しい顧客にリソースを割り振って戦う戦略を立てていくべきです。

経営者がそういう方向に“腹決め”していかないと、このままでは日本はモノづくりがどんなに優位でも、営業の効率性が低いためにSG&A(販売費および一般管理費)が足を引っ張るかたちで終わってしまうのではないかと危惧しています。
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文=中田浩子 写真=有高唯之 編集=神吉弘邦

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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