ビジネス

2022.10.04

強みが裏目に? 日本人営業スタイルの生産性

倉本由香利(左)と麻野耕司(右)

日本企業が、自社の競争力と信じて疑わなかった「顧客との強固な人間関係」や「手厚いフォロー」。しかし、そうしたかつての“強み”が、かえって企業の生産性向上にとっては裏目に出ていないだろうか?

コンサルティング企業パートナーとITスタートアップCEOが、国際競争で生き残るための方策を語り合う。


麻野耕司(以下、麻野):倉本さんがまとめたマッキンゼーのリポート「日本の営業生産性はなぜ低いのか」はインパクトがありました。これまで多くの営業担当者が漠然と感じていたことが、明確に「営業ROI(Return of Investment:投資利益率)」という独自データに基づいて提示されたからです。特に、国内ほとんどすべての業種において「グローバル水準に比べて営業ROIが低い」というデータがはっきり出ましたね。

倉本由香利(以下、倉本):私は過去、二十数社で日本の製造業の営業改革に携わり、営業改革のサポートをしてきました。営業生産性の話に限らず、問題の所在をデータやファクトで示すことは、クライアントの皆さんが社内を納得させて改革を進めるうえでとても重要だと思います。

営業ROIはマッキンゼーがつくり出した営業生産性の指標で、営業コスト(I)に対して、何倍の粗利(R)を稼げているのかを示す指標です。今回は公的なデータを用いて、業種別トップ20社の平均をグローバルの競合企業30〜50社と比較しましたが、グローバルの競合企業のほうが断然、営業生産性が高いんです。

属人化の弊害を打破するには


麻野:僕自身、前職までの経験から、営業職は課題の大きい職種だと思っていました。それもあって、現在の会社では「セールスイネーブルメント」のクラウドサービスを開発して提供しています。セールスイネーブルメントとは、再現性をもって営業活動における成果を生み出していくという、欧米で普及している概念です。

先ほどの営業生産性が低いという原因にもなりますが、日本企業の営業活動において特に問題を感じるのは「属人化」です。日本は米国に比べると労働市場の流動性が非常に低く、情報が属人化しやすいんですよね。人が辞めないから「誰々さんに聞けばいい」という具合になりやすい。その結果、再現性がなく業務が進んでいき、生産性が落ちることにつながっているのではないでしょうか。

過去の実体験でも、例えば小売りサービス業の会社に管理職研修を提案するために提案書を作成しようとした際、過去の提案書を参考にしたくても社内でそれが見つからなかった。Amazonで本を探す、NETFLIXで映画やドラマを探すのがとても簡単なのに比べて、企業内で資料やノウハウを探すのに多くの時間がかかってしまう状況はとてもおかしいと感じます。

日本企業はもともと情報が属人化していても何とかなったので、CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)の普及が遅れたと思います。さらに、国土が狭いということもあって、購買側も対面での商談に慣れている。デジタルマーケティングやデジタルセールスの取り組みも遅れています。
次ページ > 中間領域のデジタル化が必要

文=中田浩子 写真=有高唯之 編集=神吉弘邦

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事