ビジネス

2022.10.04

強みが裏目に? 日本人営業スタイルの生産性

倉本由香利(左)と麻野耕司(右)


麻野:分業化するというのも、生産性向上のために必要なアプローチだと思います。日本企業の営業部門は欧米と比べると分業化が進んでいないので、とにかく1人の営業担当を顧客に貼り付けて、顧客との商談、資料の作成、日程の調整を全部やらせている。

一方、分業化が進んでいる米国では、部門全体の汎用的な資料をつくるコンテンツ担当、人材育成を引き受ける教育担当、顧客の窓口に立つセールス担当などがいます。

倉本:提案書をつくる作業にしてもそうですね。米国では大企業や中堅企業であれば、提案書をつくる専門の部隊が営業チームにいて、最近では顧客への提案を動画にする例などが増えています。業種によっては、入札にも専門の部隊がいて、過去の案件などすべてデータを整理した結果、「いくらで入札すればよいか」「入札のとき押さえないといけない法律的なポイントは何か」などすべてチェックしています。

このように、提案書にしても入札にしても、より営業が強くなれる「ツール」をつくって提供するチームが独立しているのが米国の現状です。こうしたバックアップによって、営業担当者は「本当の営業」に集中する時間を確保できるようになり、より成果を上げられます。そんな営業起点での全社の仕組み改善を日本企業も目指すべきですね。

麻野:本当の営業の価値とは、僕は「顧客にストーリーを提供する」ことだと考えています。顧客がその領域における理想を描き、課題を見つけ、それを何かしらの商品で解決していく。その一連の物語を提供するのが営業の役割だと思うのです。これまで多くの日本企業の営業は、購買担当者とよい関係を築く、仲よくなって、時には接待する、そんな関係性において発注してもらう流れになっていました。でも、それでは立ち行かなくなったのは明らかです。

倉本:これからは「価値を売ること」「顧客の課題を解決するソリューションを売ること」がより重要になってくるでしょう。モノだけで売ると、コストカットで買いたたかれやすい。そうではなく、顧客が本当に困っていることを解決するために、必要なものを組み合わせて価値を届けるやり方です。

そのうえで、1人の営業が会社の顔としてやるのではなく、プリセールス、アフターサポートなど、各担当者間でしっかり情報が連携され、会社がチームとして価値を提供するというかたちになるべきですね。営業が変わることで、日本の企業全体が変わるチャンスだと思っています。

麻野:現状で営業生産性が低いということは、すなわち伸びしろがあるということ。これから改革をすれば、間違いなく成果が上がりますよ。

倉本:営業にメスを入れることで、その裏にある、商品開発・物流・製造といったところのやり方や仕組みが変わらざるを得なくなります。営業が変わることが、最終的にはその企業全体を変えることにつながっていくのだと考えています。


倉本由香利◎マッキンゼー・アンド・カンパニージャパン パートナー。1978年、東京都生まれ。東京大学大学院 物理学修士、MITスローン経営大学院MBA。製造業を中心に成長戦略、新規事業戦略、デジタル改革、営業改革を支援。アジア太平洋地域および日本の法人営業・マーケティンググループリーダー

麻野耕司◎ナレッジワークCEO。1979年、兵庫県生まれ。2003年慶應義塾大学卒業後、リンクアンドモチベーション入社。16年に国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。18年同社取締役。20年にナレッジワークを創業。著書に『THE TEAM』『すべての組織は変えられる』。近著は『NEW SALES』。

文=中田浩子 写真=有高唯之 編集=神吉弘邦

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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