マーケティング

2025.06.24 08:45

コスパ・タイパならぬ「スペパ」が人生に新たな発見をもたらす

デジタルカメラではなくあえてフィルムカメラ(映ルンです)で撮影した写真

デジタルカメラではなくあえてフィルムカメラ(映ルンです)で撮影した写真

AIを使って効率的に仕事をこなす。もちろんスマホは手放せない。これが現代のビジネスパーソンが置かれている現状だ。多くの人はそれが当たり前だと疑わず、また疑って検証する暇もない。

こうしてコスパ・タイパが幅を利かす世の中で、「もしかしたら大切なことを見落としているのでは?」と問題提起し、『戦略的暇』を上梓したのが、一般社団法人日本デジタルデトックス協会の理事を務める森下彰大だ。森下が提唱する概念「スペパ(スペースパフォーマンス)」とは何か、その本質を聞いてみた。


2024年12月、オックスフォード大学出版局は「brain rot(脳の腐敗)」を今年の言葉に選出した。これは、オンラインコンテンツの過剰消費による精神や知性の劣化を意味し、まさに現代の世相を的確に表している。

われわれは常に時間に追われ、情報過多の波に飲み込まれている。ビジネス書やメディアは「生産性向上」「効率化」を声高に叫び、個人の能力を高めていこうという風潮が一般的だ。

だが森下は、「ケイパビリティ(能力)を伸ばそうとする前に、まずはキャパシティ(許容量)をきちんと確保すべきだ」と説く。多忙に追われ、オーバーワークの状態ではベスト・パフォーマンスは発揮できない。まずは自分のキャパシティを取り戻すことが先決であり、そのためには戦略的暇が必要だというのだ。

戦略的暇とは、脳疲労をはじめ現代特有の疲れを回復させる時間をとり、人生を充足させるためのエネルギーを養うこと。森下がこの概念にたどり着いたのは、2018年頃から携わる日本デジタルデトックス協会の活動がきっかけだった。

「デジタルデトックスのプログラムでは、スマホなどのデバイスを預かり、自然に触れ合う体験を提供しています。日帰りイベントで数時間デバイスを手放すだけで、皆の顔色が明るくなる。最初はデバイスを手放すことに不安を感じていた方も、次第にデジタル疲れから解放され、心身ともに楽になっていく。『こんなに人は回復するんだ』というのを目の当たりにした」

デジタルデトックスの際にデバイスを預かる重厚なケース
デジタルデトックスの際にデバイスを預かる重厚なケース

森下自身はデジタルネイティブ世代で、デジタル技術の存在を否定しているわけではない。むしろ積極的に活用するが、依存ではなく、最適な共存を図ろうという立場である。

「『戦略的暇』で伝えたいのは、テック企業やメディアが悪者だという話ではありません。私たちはもともと、楽をしたい、新しいことを知らないと不安だ、という本能を持っています。デジタルが人に備わる効率主義や合理性を格段に加速させたのは間違いありません。

しかし、ちょっとした隙間時間までもスマホで動画を見たりメッセージをやり取りしたりしていると、休んでいるようで実は脳は全く休めていない。そこに気づいてほしいんです」

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